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乱世の確率事象改変
久遠の理想に軋む歯車
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束していて、それが今になったというだけなのだと。力強い瞳を向けられて、目を開いた星は小さく頷きながら見つめ返して自身の想いを視線に乗せて返した。
 それでも、形式上は臣では無くとも、自分はあなたの心に忠誠を誓っているのだと。
 信頼の絆で結ばれた二人はお互いに言い表せずとも内にある想いを分かり合えた。
 ふいと目線を切った白蓮は桃香に向き直って、

「桃香、お前が目指しているモノはなんだ?」

 研ぎ澄まされた刃のように鋭く桃香に問いかけた。白蓮は友としてでは無く、公孫賛としてそれを聞いておかなければならない。桃香が表情を引き締めると同時に、星と白蓮は空気が変わったと感じた。

「私は……誰もが笑って暮らせる争いの無い優しい世界を作りたい。私はその世界に生きる事は出来ないけれど、想いを繋ぐ事は出来るからその世界の礎になる、その世界の土台を作るためにこの乱世を終わらせたい」

 強い意志を宿した瞳で目指すモノを示されて、白蓮と星は小さく笑う。
 どうしようも無く馬鹿げた理想。民の一人一人が願ってやまない理想。久遠の彼方に顕現させる事しか出来ない遥か遠き理想の世界。誰もが願った平穏な世界。
 才能も経験も白蓮には負ける。武力も星の方が比べるまでも無く高い。血筋上、漢王朝の姫君である彼女が驕りもせずにそれを目指す姿は、誰もが希望を馳せるモノ。

「そうか……桃香の理想は変わらず、でもしっかりとしたモノになったんだな」

 白蓮は前から桃香の理想を理解していたが、彼女が言う事に不安を感じていた。長い付き合いだがどこか信じきれなかった。その理由がなんであったのかに漸く気付いた。
 現実的なモノに目を向けて、自身の身を捨ててでもそれを叶えようとする心意気。漸く本物の芯が入ったのだと。
 星は目指すモノを聞く前に、前々から桃香に惹かれてもいた。か弱い少女が民の平穏を願って乱世に立とうとするなど並大抵の精神では出来るモノでは無く、それが心の底から生まれ出ずる純粋な思いやりからだと義勇軍時代に見てきたから。
 同時に、彼が世界を変えたいと願った意味を彼女なりに理解した。自身が大罪を背負って後の世代に平穏を託す事だったのだと。

「ずっとなんとかなるって考えて進んできた。大将として一番やっちゃいけない事をしてきた。でも後悔しても、自分を責めても誰も帰って来ないし時間は戻らない。だからその命と想いを無駄にしない為に、私が出来る事を精一杯する事に決めたの。バカだって言われてもいい。笑われてもいい。憎まれてもいい。蔑まれてもいい。それでも……バカをやり通してこの世界を変えたい。それが私の決めた事。無駄な争いを望む人を全部止めちゃって、侵略を行う人を全部追い返しちゃって、平和な世界を望む人と協力して、哀しい事をもう二度と起こさせないようにする
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