久遠の理想に軋む歯車
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女がどれだけ心を高く持っているのかも、桃香には一つとして分かってやる事など出来やしない。
そこで桃香は考える。いつものように、ただ誰かの為に出来る事は無いのかと。
――白蓮ちゃん、私に何か出来る事ってあるかな?
寸前で口を突いてでそうになった言葉を呑み込んだ。
聞いてはいけない。そう思わせる何かを彼女は感じ取った。今は自分から問いかけてはいけないのだと。
ゆっくりと、白蓮は頭を撫でる手を降ろして桃香を見やった。友を見る目では無く、一人の人間を推し量る王の瞳で。
それを受けて桃香は白蓮から身体を離し、部屋の真ん中にある机の前の椅子に座って向き直った。
視線が交差すること幾分。じっと見つめられて、桃香の背筋に冷や汗が伝る。緊迫した空気は彼女の苦手とする所であるが、それでも自分から言葉を放つ事は出来なかった。
静寂の時間、後にふっと微笑んだ白蓮は優しい瞳に変わった。
――桃香も王として成長してるんだな。これなら、私は素直に従おう。
根っこの所は相変わらずでありながらも成長している友の姿を内心で喜びながら、白蓮はこれからの事を同時に考えていた。
最初は不忠を覚悟の上で客将として身を置くだけに留めるつもりであった。しかし今の姿を見て、従ってもいいと素直に感じられた。
これから彼女は桃香を利用する。桃香の元で従いながら幽州を取り戻す為に動く。自分の望みの為に友を利用するのは心が痛む、それでも取り戻したい大切な家だった。
死んでいった兵、心に刃を秘めたまま耐えている部下、自分が帰ってくると信じてくれている全ての者、自分の為にと屈辱に塗れた敗走を共に行った仲間、そして……自分の為に果てさせてしまった大切な牡丹の為にと。
そこまで考えてギシリと心が軋みを上げ、白蓮は震えそうになる拳を気力で無理やり抑え付けた。
自身への憤りは今も尚、彼女を蝕んでいる。首輪を付けた憎しみの心は今もずっと彼女の内から溢れ出たいと喚いていた。
ふいに、人の気配を外に感じて白蓮は扉に目を向ける。
「白蓮殿、入ってもよろしいですかな?」
涼やかな星の声が外から聞こえて、白蓮は桃香に目をやった。コクリと頷いたのを見てから声を返す。
「いいぞ」
「失礼します。……お久しぶりですな、劉備殿」
「うん。久しぶりだね趙雲さん。黄巾以来かな」
挨拶を返し合って、星は白蓮の隣に立った。その美しい立ち姿に相変わらず綺麗だなぁと考えながら桃香はほうと息を付く。
「星、私もお前も負けた身だ。今を以って私の臣たる任を解く」
耳にした二人はそれがどういう意味を為すかをしっかりと理解している。桃香は表情を引き締め、星は一つ目を瞑ってその言葉を噛みしめた。
星は白蓮の心を間違えない。何時かは離れて行く事を約
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