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乱世の確率事象改変
久遠の理想に軋む歯車
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。では私も仕事に向かいますね」

 愛紗は朱里の隠された心に気付かず、二人はそれぞれに与えられた仕事に向かっていく。
 皆の為に自分の出来る事をと……心を強く燃やしながら。



 †



 関所の兵から野営の道具を貸して貰いそのまま待つ事一日超。受け入れて貰えると返答があり、野営の道具を片付けるのを手伝い、ゆっくりと行軍して付近の城に着いた白蓮は久方ぶりに屋根のある所での休息にほっと息をついていた。
 風呂を借りて身綺麗に整え、客間の寝台に腰を下ろしながらこれからの事を考えようと思考に潜ること幾刻……そこに一つ、ばたばたと忙しない足音が近づいて来た。
 何事かと思って確認する為に扉を開けて部屋を出ると、

「白蓮ちゃん!」
「おわっ! と、桃香!? どうしてここに!?」

 自分を見つけて勢いよく抱きついてきた桃香を受け止める事になった。
 受け止めた彼女は息荒く、どれだけ夢中で駆けて来たのかが白蓮には理解出来た。

「とりあえずさ……部屋に入ろうか」

 すぐに促して二人は部屋へと入っていく。寝台に腰かけると再度抱きしめられ、白蓮は友の暖かい気持ちを感じて優しく微笑み、桃香の頭を撫で始める。
 ゆっくりと顔を上げた桃香は白蓮を見つめる。その目には涙を溜めていて、心配と安堵、そして罪悪感の色が濃く浮かんでいた。

――どうせ桃香の事だから私を助けに来れなかった事を申し訳なく思っているんだろう。気にしなくていいのに。守れなかったのは私だけの責任なんだから。

 友から信愛の感情を真っ直ぐに向けられて白蓮の心は安らいで行く。逃走している間、彼女の心はずっと張りつめていた。野営の天幕である程度の休息もとってはいたが精神的な負担は大きく、星から無理やり兵の管理仕事を奪われていた程であった。

「良かった……白蓮ちゃんが無事で」

 甘く耳に響く震える声、同時に涙が零れ始め、さらに力強く抱きしめられた。
 ふっと息を付いて彼女の頭を抱き寄せて撫でる事幾分、白蓮は優しく声を掛けた。

「心配してくれてありがとう。それに、お前達も厳しい状況なのに受け入れてくれてありがとう」

 凛と鈴が鳴るように綴られた言葉に桃香は違和感を覚えた。見知っている白蓮であるのならば、このような声は出す事が無かったのだ。
 前までのその声は、芯が通っていながらもどこか甘さを残していたはずであった。思いやりに溢れる声は変わらない。されどもどこか違う、そう……桃香に感じさせた。
 その原因がなんであるか、直ぐに思い至る。
 当たり前の事なのだ。自身が大切にしてきた場所を踏みにじられ、追い遣られ、遂には片腕たる臣下さえも失った。
 どれほど大事なモノを失ってここに辿り着いたのか……共感する事など彼女には出来ない。彼
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