久遠の理想に軋む歯車
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えるのは両者共に同じ……それでもこのように体面的な姿勢も見せなければならないのは辛いモノだ。
昔の桃香ならば跳ねるようにすぐ受け入れの伝令をと慌てた事だろう。今のこの姿は王として相応しい。
誇りに思うと同時に、愛紗は少しのやるせなさを感じた。なりふり構わず人を助けようとする必死な桃香の姿が彼女の中にあった為に。この姿は果たして成長と言えるのだろうか、と。
しかしこれも大陸に平和を齎す為なのだと、愛紗はその全てを呑み込む。ここは城であり朝議の最中。愛紗とて、王としての対応は見せなければならない事も分かっていた。
「では桃香様。受け入れると早馬の伝令を送ります」
「あ! 愛紗ちゃん、伝令さんを送るのと同時に護衛の小隊を編成してくれる? 私も白蓮ちゃんの所に向かうから」
唖然。愛紗も朱里も、その場の誰もが桃香の発言に思考が止まった。先に自分を取り戻した朱里は疑問を投げる。
「と、桃香様? その間の仕事はどうするのですか?」
「道中とか向こうで出来そうな書簡を纏めて持って行くよ。ごめんね朱里ちゃん。これだけは譲れないの。ここで白蓮ちゃんが来るのをゆっくりと待つなんて……今の私には出来そうにないみたい」
儚げな笑顔の先にある想いは強い。彼女はただ友の身を案じている。王では無く、彼女は一人の人間である『桃香』として、それを為したいと言っていた。
逃げ出してきたという事、それと彼女の臣下の一人が戦死した事で白蓮の心は見たことも無い程に傷つき荒んでいる事だろうと考えて。旧知の友であり、治める地やそこに住まう者達へ白蓮が向ける想いを知っているから……一人でも多くの人が支えなければ彼女は壊れてしまうのではないか、と桃香は不安に思っていた。
王としての責務も大切ではあるが、彼女はどこまで行っても桃香で、傷ついた人を放ってはおけない性分。そんな彼女だからこそ民も臣下も慕い、付いてきている。同時に、この時代の大陸ではその心は最も尊きモノ。
その場にいる文官達の皆がその心を理解して優しく微笑んだ。自分達徐州の全ての人民にも同じようにそれが向いているのだと理解している為に。
儒教が浸透しているこの時代、徳高き心は何よりも称賛されて当たり前のモノでありそれが王道の真髄。漢王朝の血筋である桃香が見せれば尚更輝くモノ。
愛紗はふっと微笑み、先程のやるせなさは露と消えた。
――桃香様は変わりなく私の掲げる主のまま。ならば彼女の望みを叶えるのが臣下の務めではないか。
朱里も同じような事を考えていたようで、瞳を輝かせて桃香の事を見つめていた。
「では桃香様。代わりの仕事を行っておきます」
「こちらは私達に任せてください。皆さん、差し当たって大きな問題は上がらなかったので朝議はここで終わりとしますがよろしいですか
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