詠われる心は彼と共に
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間が止まったかのような感覚の中、吹き抜ける風は心地よく、日輪の光が眩しかった。数多の怯える視線が俺達を貫いているのを感じて小さく苦笑が漏れる。
――見ろよ月光。奴等はお前を恐れたぞ。ここからはいつも通りだ。俺と一緒に輝こうか。
気高く美しい相棒に心の中で呟き……そして恐怖と混乱に支配される敵兵の真っただ中に俺達は降りたち、そのまま鮮血の紅華をいくつも咲き誇らせた。
――なんなのだあれは。
情報にあった戦場で鳴る笛の音が耳に届き、その方を見やっていたら……一頭の黒馬が宙を駆けた。馬の跳躍は幾多も見て来たが、戦場でそれを行うモノは初めて見た。
数瞬後、降り立つと同時に、鮮血が一つ、二つ……幾つも宙に吹き出し、戦場の空気が一変された。
私はその空気を知っている。圧倒的な武力を持つ者に蹂躙される恐怖。圧倒的な強さの敵に押し込まれる怯え。過去に敵がそれに呑み込まれて行くのを何度も目にしてきた。姉様が戦場に立つ時、必ずと言っていいほどその空気が敵を支配していた。
だが、今それに支配されているのは自分達の軍。孫呉の精兵である、母様に従ってきた者達や私達が手塩に掛けて育て上げてきた者達が……呆気なく、崩れ始めているということ。
困惑が頭を少し染め、思考が回る。黒麒麟は敵左翼にいると思っていた。奴は騙していたのだ。牙門旗をそこに置き、自身の部下に自分の真似をさせて。第二の戦闘でその姿を見せつけていたのは明命と思春をおびき出す為か。こちらの狙いと偶然重なっていたのも悪かった。
さらに、鳳統の姿が目撃されたとの情報も入ってから、何か策があると深読みして陣を広げたのはこちらの失策。亞莎がその対応へと向かい、薄くなった中央には私が指揮に出るしかなく、士気を上げる為に自然と前線に近い位置に引き摺り出されていた。奴等は全てこの時を狙っていたんだ。私を殺せる程の機会を。
ここは戦場。例え誰であろうとも、死は平等に隣に控えている。大将だから、軍師だから、武将だから……そんな甘い事は通用しないのだ。
奴等と密約を結んでいれば本当の茶番を演じられただろうが、それでは女狐の目は騙せない。私も、きっとそのような甘えた状態のままではボロを出してしまっただろう。
絡み合ったお互いの思惑から、目的が違う可能性も多々ある。私を殺せばどうなるか奴等も幾つか予測くらいはしているだろう。それでも、確定しているわけでは無い。私を殺す為も十分に在り得るのだ。
じわじわと、握りしめる拳が湿っていく。脚も、身体も、唇も、全てが震えていた。
――この様では……私は王足りえない。これを乗り越えて、この戦場を遣り切って、生き残って初めて、死んだ仲間と、生きている兵と、家族たちに顔向けが出来る。だから……
心に込み上げるモノを気力で
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