詠われる心は彼と共に
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所詮は普通の兵相手に対してのモノ。徐晃隊最精鋭という異常なモノを相手取る為には薄すぎる。
――やっと、お前を叩き潰してやれるぞ、孫権。
ギシリと手綱を持つ拳が握られた。自分の感情を押し殺す為に。感情を殺さなければ刃は速さを失い、自身の動きが鈍る。
大丈夫、大丈夫と口の中で呟いて、戦場を駆ける為の思考へと向けて行く。
ゆっくりと目を瞑り感情を凍結させて行き、開けると視界は良好だった。やっと冷めた頭に自分自身で少し呆れながら、前で蠢く味方の後背へと大きな声を放った。
「安息の地を守る勇者達よ! とくと見るがいい! 我ら黒麒麟の戦をな! 俺達は今、敵を貫く槍とならん! 焦がれたなら追いすがれ、守りたいなら付いて来い! 貫け、俺達と共に!」
俺の声を合図に徐晃隊が全力疾走で駆けて行く、その数七百。先頭を走る部隊長は高く、長く笛の音を鳴らしながら。俺が跨る月光は徐々に、ゆっくりと助走の速度を上げながらそれらに並走して行く。
徐晃隊が分かれた味方の合間を過ぎ去る中、徐晃隊で無いモノ達は口々に声を上げて俺達を見送る。その瞳の色は歓喜、信頼、そして決意。奴等はきっと、俺達の後ろで戦ってくれるだろう。俺達を守る為に押し寄せてくれるだろう。
詠の伝令は全ての兵に行き渡っているようだった。俺達の使う笛の音――黒麒麟の嘶きと兵達から呼ばれ始めている音が聴こえたら中央は道を開けろ、と。
最前の中央戦線を保っていた部隊は初戦で新たに仲間となった徐晃隊所属予定の元袁術軍の新兵達。笛の音の合図の意味はこの短期間で嫌というほど染み込ませており、笛の音を聴いた全員が瞬時に、敵の攻撃さえも無視して左へと動いていった。
出来た隙間に、困惑が支配している敵の視界の真ん前に俺達が姿を現す。遅れて、計算上は同時にぶつかる時間を幾分か残して、
「行こうか相棒。お前も足りないよな? お前の本気を見せてくれ」
月光に声を掛けると、助走はもはや十分だと戦場を最速で駆け始めた。徐晃隊は自然と俺と相棒の為だけの道を開けて敵兵に突撃を仕掛けて行く。
全てがぶつかるまで数瞬、驚愕に目を見開きながらも槍を突きだそうと構える敵兵達は……なるほど、確かに精兵と言えるだろう。しかし、
「クク、ははは! 甘すぎるなぁ!」
徐晃隊のバカ共の実力への見誤りと、俺の相棒への認識の甘さと、俺達が仕掛けるちょっとした最悪の悪戯が面白く感じて、自然と笑いが口から零れた。対して月光は、自分を舐められた事に対して憤っているようで小さくうざったそうに嘶いた。甘ったれた敵に、お前の存在をその脳髄に深く刻み付けてやれ。
「跳べ、月光!」
呼びかけると大きな嘶きと共に、相棒は大地を蹴って空を駆けた。高く、速く……敵も、突き出される槍をも飛び越えて。
時
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