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乱世の確率事象改変
詠われる心は彼と共に
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ろうか。否、遣り切ったと喜びこそすれ、怨み憎むはずがない。
 彼らは知っているのだ。誰よりも誰かを助けたい男がどれだけ自分達を想ってくれているかを。どれだけ男が自身を憎んで、苦しんでいるかを。どれだけ、未来に生きる人の幸せを願っているのかを。
 その優しい男の為ならば、乱世に鮮やかに咲く華になれる事を誇りこそすれ、どうして醜い負の感情など持てようか。
 彼らが死の間際に笑みを浮かべるのは、ただ単に、彼に一つの想いを伝えたいが為。

 俺達は御大将と戦えて幸せだった。だからどうか悲しまないでくれ、と。

 秋斗も、その想いを間違う事は無く、だから自身が下した命に対しての責任を取る為に戦う。一つたりとて彼らの命を無駄にしない為に。
 徐晃隊が突撃した後は間が出来た。一つの紅い絨毯のようなそれは彼の為の道。茫然と、今も馬の上で恐怖に心が縛られて指示を出しかねている彼女へ辿り着く為の道。敵と味方の命を対価として作られた、高価で大切で残酷な道。
 充分に距離が出来て漸く、月光の腹を蹴って彼はそこを駆けた。
 聞きなれた蹄の音は徐晃隊にも聞こえている。耳に届けば自然と誰も彼もが道を開けて左右の敵へと向かった。
 助走は十分。後は辿り着くだけ。恐怖に縛られた敵兵は震えながらも己が主に近付かせまいと攻撃の素振りを見せるも、秋斗に気を取られたモノは徐晃隊に殺されていくだけであった。
 血みどろの殺し合いの戦場はやはり地獄のよう。彼は駆け抜けながら自分達が作り出した地獄の醜悪さに心を冷やしていく。
 駆ける内、秋斗は目をすっと細めた。その視線の先に迫るのは……馬を駆った孫呉の姫君。その行動は怯えきった兵への鼓舞であったのか、それとも狂気に当てられて身を這いずる恐怖に耐えきれなくなったのか。携えた瞳には決意の輝きが燃えているのが見えて、彼はその姿に感嘆の念を覚えた。
 蓮華が行った選択は間違いでは無かった。浮足立っていた周りの兵の誰しもが自分を取り戻し、徐晃隊という化け物に向かい行く勇気を持つことが出来たのだから。
 さすがは英雄、と。一つ口の中で呟いた秋斗は月光の速度をさらに上げた。
 周りの兵はその状況を理解する。大将同士の一騎打ちなのだと。それを穢す事は誰にも出来やしないのだと。
 誰しもが自分の主を信じて眼前の敵兵へと向かう中、目線を合わせて睨み合いながら突撃する二つの影は……遂に交差する。
 秋斗の剣は異常な程長く、容易に蓮華の剣の間合いの外から届いていた。力の差は戦うまでも無く歴然であり、受け止める事よりも受け流す事を選んで斜めに剣を振り上げた蓮華であったが、甲高い音が鳴ると同時に自身の予測より大きな衝撃によって弾かれ、腕の痺れから一瞬の間が出来た。
 そこに、交差する瞬間に、彼は滑るように無理やり身体をずらして月光の背を支点とし
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