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象徴ストーリー
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与えたものには、それを持つ人をどこにも導いてくれないということがあるんだよ」
「すいませんもう一回お願いします」と、僕は言ってごく光薄い闇の中で指を立てた。そして手探りでボタンを押しまくった。オレンジ色に光る丸いボタンは少しだけ闇を照らす。
「世の中が価値を与えてしまうものには、それを持つ人をどこにも導いてくれないということがあるんだよ。そして非常スイッチはないかい?」と、彼は同じ調子で繰り返した。僕の目にはぼんやりと紳士が、以外にも僕より背の低い、たっぷりと髪の毛のある紳士が映っている。なるほど人がいたんだ。
「スイッチは無いみたいです」と僕は言った。
「無いのか。探すのを忘れていた、申し訳ない」と彼は答えた。
「どこに向かうのですか?」僕は両手を広げて賢人に問うた。「このエレベーターはどこに?」と大声で答えた。「マッタク!」紳士は怒ったのだ。
「そんなもの知らない! 私が聞きたい。君はどこから入ってきたのだ! 入ったところがわかれば向かう先も分かりそうなものじゃないか。ビルの一階で乗ればその屋上に着くとかね!」紳士が怒っている。
「知らないうちにここに居たんだから、知らないよ。知らないうちに真っ暗だったんだから。さっきエレベーターなんて言ったけれど、本当にエレベーターかどうかもわからない。本当にこれはエレベーターなの?」と、僕は更にテンションがあがってしまった。
「君は何もわからない事に腹を立てているようだけれど、私は君と同じようにここに迷い込んだとき、すでに君に教えた事を思いついていたよ。君の思考は何一つ救いを見出していないのかな!」
「救い?」と、僕は声を裏返してしまった。「何が?」
「世界が価値を与えたものには・・・」
「そういう問題じゃない!」と僕は言葉をさえぎった。こういう場面になると僕は年上にとことん逆らう。
「だいいち言わせてもらえば、世の中から価値を与えられることで、自分を再発見できる可能性だってあるんだからね!」そう言ってしまってすぐ、僕は随分青臭いなあ、と思って醒めた。醒めて紳士への憎らしさを腹にためた。
「僕が言ったことはこのエレベーターらしきものの形而上の意味を踏まえた名言なのだけれどね」と、紳士は言った。
「あなたはこのエレベーターにそんな価値を与えたのですね。きっとエレベーターは自分を再発見しますよ」と、僕は言った。
二人のあいだに沈黙が降りた。そして僕は振り返る。二人? 二人しかいないのだろうか?
「すいませんタバコを吸ってもよいでしょうか」と誰かが言った。「長い時間吸っていないとちょっと耐えられないもので」
 それはオレンジの光が届かない箱の向こうからの声だろうか。
「私はかまわない。もともとへービースモーカーなのです」と紳士は言った。「一本もらえるとうれしい」
「僕も一本もらいたいけ
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