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季節の変わり目
棋譜の相手2
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 本当の意味でsaiになりたいなんて、一瞬でも思ってしまった。ただ、羨ましかっただけだ。ヒカルがこんなに求める人が。
 
 対局は滞りなく進んだ。流れ良く盤面が彩られていく。思った通り、ヒカルは少しブランクがあった。しかし持ち前の勘の良さでそれを補っている。ヒカルは対局中にちらちらと私を見た。

「ヒカル、集中してください」

私らしくもない。イラついている。ヒカルはびくりとした。そして「分かってます」と言い聞かせるよう呟いた。

 私はsaiの力で容赦なく打った。気持ちいい気はしない。自分が知らない手を自分が気づけるのも気味が悪くてしようがない。時間に比例してヒカルの顔が青くなっていく。

藤原さん、俺に囲碁教わったって言ったのに・・・。そんなの嘘だ。人がこんなに短期間で強くなれるはずがない。それも、塔矢名人レベルなんて。この人一体何者なんだよ!

でも、分かったことがある。棋譜の相手は、藤原さんだ。なんで?藤原さんと会ったのは去年なのに。なんで昔の俺と藤原さんが打った棋譜があるんだ。別人、なんだろうか。いや、そんなことは・・・。

考えているうちに、自分の形勢をさらに悪くさせる一手が盤上に落とされた。こんなに集中できない対局は伊角さんとのプロ試験以来かもしれない。

この人は全てが謎だ。なんで俺のお見舞いに毎日欠かさず来て、何をするでもなくただ話をして、俺に優しくしてくれるんだ。なんでこんなにかまってくれるんだ。

藤原さんの顔を今見たい。興味がある。普段、対局中にこんなことあまりしないのに。藤原さんっていう人が知りたい、碁だけじゃなくて。俺は懲りずに藤原さんが考えているのを見た。思い出せない。でも、何か懐かしい感じがする。長い睫毛。漆黒の髪。薄い唇。考えている姿に引き寄せられる。今、石を掴んで盤上に力強く打つ。

・・・綺麗だ。

あれ?前にも、こんなこと思ったよな。

俺、藤原さんを何度も見てきた気がする。まるで、昔からの親友みたいに。こうやって、一緒に碁を打ってきた気がする。それにしても、何なんだ、この強さ。塔矢の親父とも互角で戦える。でも藤原さんはプロじゃないって言ってた。プロじゃないのも・・・嘘?

 終局して、言葉を交わした。私たちはお互いの視線を合わせて、改めて対面した。

「何か、思い出しましたか」

「・・・ううん、でも藤原さんが俺にとってなにか重要な人だったんだってことは分かった」

その言葉が私の胸を締めつけた。今、嫉妬してる。ヒカルが想う人が妬ましい。ヒカルさえも嫌いになりそうだ。

でも・・・

「ふ、藤原さん!?」

気がついたらヒカルを抱きしめていた。初めは少し抵抗された。それでも私はヒカルを放さずその肩に顔を埋めた。ヒカルは段々と力を弱めて、
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