オリジナル/未来パラレル編
第21分節 戒斗との再会
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雨が降っている。
野外劇場で、咲は雨に打たれながら客席の上の段に座り込んでいた。
“碧沙は死んだ”
二度と逢えない。どこを探しに行っても居ない。
痛いほどよく分かるのに、涙は出なくて。
雨はこんなに降っているのに、咲の目からは一滴の水分も流れなくて。
ただ、濡れゆく体だけが、凍えるほどに寒かった。
ふいに、俯いていた咲の視界に、何者かの靴が映り込んだ。紘汰だろうか。ザックだろうか。咲はぼんやりと顔を上げた。
正面に立っていた人物の意外さに、咲の目に光が戻った。
「戒斗、くん……どうし、て」
ザックが言っていた。9年前に戒斗は消息を絶ったと。それに、今は咲の自覚から9年が過ぎている。紘汰やザックのように、戒斗も9年分の齢を重ねていなければおかしいのに。戒斗の容姿は、司祭のような白服を除けば、咲の知る駆紋戒斗のままだ。
「思い出したか」
「え」
「無くしていた記憶を取り戻したか、と聞いている」
「あ…」
欠けたキオクの正体は、ヘキサの死だった。咲自身が直接見たわけではないのに、いつしかヘキサが殺されていく光景が確固たるヴィジョンになるほど、咲はヘキサの死を思い描き続けた。
「……うん」
「その上で今何を思う」
咲はナップザックのベルトから、ヒマワリのロックシードを取り外した。最低ランクの錠前。それでも大事に持っていた。戒斗から貰った物だから。それに――
“その花を咲かせてしまえば、もう二度と、後戻りはできない”
花はすでに咲いている。咲はあの頃には二度と戻れない。ヘキサと笑い合い、ただ楽しく踊っていられた時には、戻れないのだ。
あの時に忠告の主体を吟味すべきだった。後戻りができないとは、誰のことを言っていたのか。気づかずの内に咲は“誰”の運命を選んでしまったのか。
「――もう。みんな優しすぎるよ」
今日まで紘汰もザックも晶も、光実も舞も、ヘキサの真実を咲に教えなかった。
だがそのことに咲は怒らない。脱力して怒る気も起きない。ただ乾いた笑いばかりが落ちる。――知らなかった。人間は悲しすぎると笑う生き物らしい。
「あたしもう、そのくらいで壊れるくらいの可愛げないのに。みんな過保護だなぁ。一人くらい教えてくれたってよかったじゃん」
「それが貴様の答えか」
ぴた。咲は笑うのをやめた。
「でもね、分かんないこともあるの。あたしは何で、ヘキサが死んだ世界を9年も守ってたんだろう、って。ヘキサが死んだ世界に意味なんてないのに。何であたし、戦うのをやめなかったんだろう。そこだけが思い出せないの」
室井咲
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