暁 〜小説投稿サイト〜
碁神
碁は心の戦いです。
[1/4]

[8]前話 [1] 最後
 空気がピンと張りつめ、自然と背筋が伸びる。
 自室であるにも関わらずアウェイのような雰囲気に、指先が震える。
 その元凶たる相手――美鶴をちらりと見遣れば、盤面を睨むようにして長考中。 眉間に皺が寄っている。 どうやら俺の打ち込みが効いているらしい。 悩め悩め。

(はぁ……)

 美鶴に悟られないように、小さく息を吐く。 奴の手に結構なダメージを受けていることを悟られるわけにはいかない。 勢いづいたらやっかいなタイプだからな。
 今は中盤。 いたるところが臨戦状態な今、重要なのは盤面以上に心理戦だ。 このいつもとは違う場の空気に、美鶴から発せられる気迫に、飲まれたら多分……負ける。

 心と心のぶつかり合いとは良く言ったもので、相手の手に怯み自分の打ち方が出来なくなったら勝負は敗北に限りなく傾く。 そして、心が折れた瞬間が投了。
 俺にとって怖いのは、気づかないうちに思考が硬直し視野が狭くなっていること。 思考の柔軟性を失ったら俺の碁はおしまいだ。

パチパチッ

 美鶴が置いた石に、ノータイムで打ち返す。
 鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしていたため、フフンっと笑ってやったら悔しそうな顔をし、また盤面を睨み始めた。

 かなり良いところに打ってきたんだけど、美鶴が長考してる間俺だって長考してるわけで。 打たれたら一番嫌なところの対策を練るくらいは当然していた。
 攻撃力では負けても読み合いで美鶴に負けたことは無い。 長考は不利になるだけだぞ?

パチッ!

 美鶴もそれが分かったようで、それほど時間を待たずに打ってきた。 挑戦的な目つきを余裕ありげな表情で受ける。 いや、全然余裕ないけどね? 俺の表情で、自分の打ち込みが全然効いていないんじゃないかと勝手に焦ってる美鶴にのっておくことにする。

パチ

 美鶴は心理戦など全く考えていないようだが、こいつの碁は相手の心を削る碁だ。 こいつに限らず攻撃的な打ち手はみんなそうかもしれない。
 ネット碁越しに『うわ、怖ぇー』なんて言っていた過激すぎる攻め。 これをリアルでやられるのがこんなにも心に来るものだと思わなかった。
 こいつの一手一手が投了を促しているようにすら思えて、指先の震えを抑えるのが辛い。

 たぶん、美鶴は心が強いのだろう。 俺がどんな打ち込みをしても長考するだけで怯むような様子は無い。 こいつの頭にはどう攻めてどう勝利を掴み取るか、そのことしか無いんだろう。
 自分の勝利を疑わない美鶴の一挙一動全てが相手への心理的ダメージになりえる。 心理戦なんて考えなくても無意識にこなしてるわけだ。

 ――……正直、舐めてたな……。

 正座していた足を胡坐に組み替える。 いい加減痺れた。

 あ、舐めてたってのは美鶴のことをじゃ
[8]前話 [1] 最後


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ