碁は心の戦いです。
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るようになって、苦労もあるけどそれ以上に毎日が楽しいんだ。
――それらを全て諦めてまで、碁の道に身を委ねる覚悟が俺にあるのだろうか?
碁は好きだ。 何にも代えがたい、大切な物だ。 知れば知る程そのどこまでも続く深淵に囚われそうになる。 その度に、無上の幸せを感じる。
そう、俺は碁を愛している。
……だけど、子ども達のことも、やっぱり好きなんだ。
囲碁はプロにならなくてもできないことは無い。 プロ棋士の生きる世界で生きることはできなくても、美鶴のような打ち手とだってこうして打つことができる。
でも教師はそういうわけにはいかない。 この資格を取るのにだって苦労したんだ。 多額のお金も親から借りて、やっと大学を卒業し今の職につくことができた。 それらを全て無にするのか。
囲碁は打ててもプロ棋士の世界のことなんて何も分からないし、その道の常識だって無い。 本はたくさん読んだから棋士の名前とかなら結構詳しいけど、それだけだ。
碁と今の職、生活だったら、子ども達だったら、どっちが大切かなんてわかり切ってるだろ? そう、当然――……俺は、俺は――
「ここまで……だな。 ……負けました」
「え?」
「……二度言わせる気か?」
「あ、いやっ、悪い。 ……ありがとうございました」
ぶすっとした表情から、美鶴が投了したことを察し、慌てて頭を下げた。
「お前が投了するなんて珍しいな」
「そうでも無い。 どうあがいても届きそうに無い時は投了してる」
「ああそう……」
投了しどきにも投了しないのは勝てる可能性を見出していたわけか……。
「で、どうだった?」
「何が?」
「分かっているだろう? 初対局の感想だ」
「初対局って、お前とは何度も打ってきたじゃんか」
確かに初対局のような新鮮さを味わったものの、心を見透かしたような言葉にのるのが癪でついひねくれたようなことを言うと、美鶴は呆れたような顔になった。
「意外と椎名は子どもっぽいことを言うな――……いや、それとも本当に……俺の力不足か……」
「いや、冗談冗談! 確かに味わったよ、初対局並の感動っていうか、目から鱗みたいな奴を!」
勝手に落ち込み始めたため慌てて話せば、美鶴は満足気ににやりと笑った。 まさか、はめられた……!? くっ、対局じゃ心理戦苦手なくせに! 笑ってないでその技術を対局に生かせ!
「なら良い。 こうして近い距離で向かい合い碁を打つというのも良いものだろう。 真に生きた碁というものはネット碁ではなかなか味わえないものだ」
「ああ……お前が俺をプロ棋士に誘う理由もなんとなく分かったよ。 魅力も、さ」
「……っ! では――」
「でも、ならない」
勢いよく身を乗り出す美鶴から目を逸らし
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