暁 〜小説投稿サイト〜
碁神
碁は心の戦いです。
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ないぞ。 美鶴がこだわっていた、直接向かい合って打つということに対してだ。
 ……ネット碁とリアルで打つのとで、こんなにも差があると思わなかった。 心理戦が重要になるなんて思いもよらなかったし、心と心の戦いなんて、分かった気になってただけで全く意味が分かってなかった。

パチッ

 全てが新鮮で、まるで初めて碁を打ったかのようだ。
 ――この怖いくらい張りつめた空気。 プロ同士の対局では普通なのであろうこの空気の中で、戦い、高め合い、至上の一手を模索する――それが、プロ棋士というわけか。

パチ

 碁の新たな一面の、魅力の強さに恐怖感が湧く。 これ以上踏み込んだら、もう戻ってこれないような、そんな恐怖感が。 今の生活を、日常を壊してしまう程にのめり込み兼ねない魅力が、怖い。
 しかし、それ以上に碁の深みをまた一つ知れたことに対する喜びが強い。 この喜びが恐怖を勝らない者にはこれ以上碁の深淵へ足を踏み入れることは出来ないだろう。

 ああ、だからか。

 ――やっと、美鶴が俺をプロ棋士にしたがる意味が分かった。 その魅力も、分かった。
 でも――

パチッ

 あ、こいつ切りやがったな。 次で連結させようと思ってたのに……だけど良いのか? お前、人を攻める事ばかり考えてて守ることを考えて無いぞ……っと。

パチ

 お、顔が固まってる。 対局始まった途端無表情になって焦ったけど、慣れてくると結構表情豊かだよな。 案外、今までが無理して笑ってたのかもしれない。 で、今が素か。
 まだあまり親しく無い相手と接する時って、好印象持って貰おうと結構気ぃ遣うんだよな。 分かるよ。 俺もいつもより料理気合いれたし。
 俺たちの場合、付き合い自体は長いけどリアルで会うのは殆どは初めてに近いから色々複雑だ。

 ……はい、長考入りましたね。 ごちそうさまです。 俺もこの切られたところどうするか、一応考えはあったけど粗が無いか詰めておこう。

 ――俺と美鶴は間違いなくライバルだ。 それも最高に相性の良い。 お互いがお互いに無い所を持っていて、対局後には必ず何かを学べる。 それ以前の自分とはほんの少し違った自分になれる。 そうやってお互いを高め合える、最高のライバルと言っても過言ではないだろう。 たとえ片方の勝率が100%だとしてもな!

 ……だから、美鶴が俺をプロにしたい気持ちも分かる。 俺だって立場が逆なら何とかして美鶴をプロにしようとしただろう。
 だけど――プロ棋士になるか考える度に、脳内に俺を慕う子どもたちの笑顔がどんどん浮かび上がってくるんだ。 出会いと別れの繰り返しな職場だけど、それだけ多くの出会いがある職場でもあり、そこに魅力を感じている。 囲碁部も作ったし、目標もある。 仕事のノウハウも分か
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