ヘルヘイム編
第19話 7分の6の現実 B
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ヘキサと咲が向かったのは、街の真ん中に架かる歩道橋の上だった。
クラックがあるであろう場所は、工事現場を装って通行止めにされていた。
「ここ?」
「うん、まちがいないわ」
ヘキサは地図アプリを終了してスマートホンをコートのポケットに入れ直した。
「ユグドラシルの奴ら、どっから見てんだろーね」
「――、あっちかな」
「またヘキサのカン?」
「なんとなくだけど、そんな気がする」
「ヘキサが言うんならきっとそーなんだろーねっ」
ヘキサはなんとなく気になった方向に軽く手を挙げて微笑んだ。これで本当に貴虎が観ていたら、自分が地上にまだいると伝わるだろうが、果たして――
そうしてからヘキサは、欄干に足をかけていた咲に並んだ。
(そういえば咲と二人きりってひさしぶり。いつもリトルスターマインのみんなでいっしょにいたから。みんながイヤとかじゃないんだけど。でも、ちょっとうれしい、かな)
「学校の屋上とかもだけどさ、こういう高いとこにいると、空がちょっとだけ近くに感じるね」
「そうねえ。わかる」
「あーあ。空飛べたらなあ。てか今なら飛べそう? な気がする〜♪」
「どうしたの、急に」
「昔の歌詞にあったんだって。君がいれば空も飛べる〜、みたいな」
「咲がわたしを抱えて飛んでくれるの?」
ポップな絵面しか想像できなくて、ヘキサはついくすり、と笑った。
「やれるもんっ。ヘキサがいっしょならそれくらい」
咲がぷう、とほっぺたを膨らませた。女子の自分が女子に向ける感想ではないが、かわいい。
「――紘汰くん、だいじょうぶかな」
咲が見やったのは、クラックがある一画。
光実からのメールに、紘汰はヘルヘイム側でインベスを食い止めてあると書いてあった。すぐ手が届く場所で葛葉紘汰は戦っているのかもしれないのだ。咲が紘汰の身を案じてもしようがない。ヘキサはそれを少し寂しく思う。
「今からでも葛葉さんのとこに行く?」
「行かない」
シークタイムゼロだった。多少は答えに詰まるだろうと予想していただけに、意外さを隠せなかった。
「あたしが今いたいのは、ヘキサのとなりだから」
心臓が一つ大きく跳ねるくらい凛々しいまなざしが、ヘキサを射抜いた。
「ヘキサだってコワイでしょ。いつバクハツしちゃうかわかんない街にいるの。だからあたしがヘキサのそばにいてあげる。こういう時はヘキサのそばにいるって、あたし、決めてるもん」
「……ありがとう」
ヘキサは改めて咲と手を繋ぎ、遠い空を仰いだ。
見上げた先のユグドラシル・タワーで、リングは不気味なほど静かにゆっくりと、回る。
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