第九章
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第九章
「動こうと思ったんだ。そして僕は動いたんだ」
「人の為に。進んでですね」
「色々とやったよ。ゴミ拾いや掃除といったこともね」
「それもですか」
「考えてね。それも人の為だと思ったんだ」
僕はここで正直拍子抜けしたものを感じずにはいられなかった。何故なら先程のお話で我が身の危険を意識されることもなく海に落ちた人をたすけられたのだから。それと比べればゴミ拾いや掃除といったものは実に小さなものにしか思えなかったのである。
「それで。やってみたんだよ」
「それでですか」
「これは人だすけじゃないって思うのかな」
「それは」
「正直に言っていいよ」
口ごもる僕にこう言われてきた。
「何も怒らないし不快にも思わないから」
「ですか」
「だから正直に話して欲しいんだ」
「そうですか」
「だから。よかったら」
「はい。それでは」
そこまで言われては僕も正直にならざるを得なかった。そうして僕は今その己が考えていることを率直に三神さんに対して申し上げたのだった。
「そう思います」
「ゴミ拾いや掃除は人だすけじゃないと」
「ええ。小さなことだと思います」
僕は今自分が思っていることを本当にありのまま述べた。
「それは」
「そう。やはりね」
三神さんは法衣の中で腕を組まれたまま頷かれた。やはり怒ることもなく不快な顔をされることもなかった。本当にありのままの御顔だった。
「そうだと思ったよ」
「そうですか」
「僕も最初思ったんだ」
それは三神さんもだったという。
「何が人だすけかってね。けれど」
「けれど?」
「考えるうちにね。思ったんだよ」
本当に言葉のその澄み具合がさらに清らかなものになってきていた。
「何でも些細なことでもそれで人が喜んでくれるなら」
「それが人だすけだと」
「そう。だからゴミ拾いや掃除もはじめたんだ」
そういうことであった。
「それで。毎日続けてみたよ」
「毎日ですか」
「街中を歩き回ってね。時間があれば」
ゴミ拾いや掃除は確かに何でもないことだ。だがそれを毎日というと流石にかなりのものだと思った。しかし三神さんはそれを毎日続けられたのであった。
「やったよ。毎日ね」
「そうですか」
「そうしたら。またできたんだ」
「また!?」
「そう、またなんだよ」
ここでまた、という言葉が出て来たのだった。
「またね。色々な人がお金がなくて病気で困っていたり親や子供のことで困っていたり」
「そうだったのですか」
「こうした普通の街の中でも困っている人は何処にでもいるものなんだ」
こう僕に言ってくれたのだった。これもやはり今まで三神さんが気付かれないことだったのだという。ゴミ拾いや掃除をして街中を歩き回るまでは。それまでは気付かれること
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