第七章
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あ」
「助けた。俺が」
ここで周りを見回されたという。まだ黒い色にしか見えない海に自分の船。その小舟のエンジンのところにその人が肩で息をしてしゃがみ込んでおられたのだった。
「この人をか」
「そうさ、今は」
「鮫だって側にいたのにな」
「鮫が」
また周りを見回した。すると確かに鮫がいた。滅多に見られないような大きな背鰭を見せている。
「それでよく助けたね」
「いや、凄いものだよ」
「俺が人を助けたのか」
「ああ、そうさ」
「今助けたんだよ」
表情を消して呟く三神さんに皆はまた告げたのだった。
「あんたがね」
「よくやったよ」
「俺がか。そうか」
これは三神さんがはじめて人を助けられたことだった。しかしその時のことは御自身では何一つ記憶にない。本当に完全に無我で動かれたのだった。
「不思議な話だよね」
「はい」
僕は三神さんの今の言葉にも頷いて答えた。
「そんなことがあったんですか」
「そう。その時どうして自分が動けたか考えたんだ」
「どうしてですか」
「どうしてだと思うかな」
ここで僕に対して尋ねてきたのだった。
「それは。どうしてだと思うかな」
「それは」
問われるとどう答えていいかわからなかった。そもそも僕にはそれが何故かさえわからなかった。考えずに無意識のうちにそうした行動に出られるとは。
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