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ソードアートオンライン 無邪気な暗殺者──Innocent Assassin──
OVA
〜慟哭と隔絶の狂想曲〜
嘆きの歌
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唯一の手段、担架アイテムによって眠っているプレイヤーを《圏外》へ移動させ、そこでHPをゼロにさせるなどといった、俗に言われる《睡眠PK》技が存在する。
その中には、《圏内》で《完全決着モード》での
決闘
(
デュエル
)
を申し込み、睡眠時で自力での操作が不可能であるプレイヤーの指を動かし、受諾合否ウインドウのOKボタンをクリックするというPK技がある。
リータがやろうとしたのは、まさにそれ。
寝ているレンの部屋に、こっそり受諾させたパーティーメンバーという身分を利用し、忍び込む。宿屋の扉は、デフォの状態では『パーティーメンバー間での開閉自由』であるため、鍵が掛けられていても侵入することは容易だったろう。
そして、寝ている自分に対して
決闘
(
デュエル
)
を申し込み、指を動かしてボタンを押させる。
たったそれだけの動作で、一人の少年の命はあっけなく終焉を迎えていたはずだ。
―――じゃあ何で、僕は生きているんだ………?
そんなこと、決まっているじゃないか。
レンの表情から察したのか、淡く微笑みながらリータは口を開いた。
「そう、殺せなかったんだ。指を掴んで、あとは受諾ボタンを押すだけだったのに、何だかやる気が起きなかったの」
やる気。
殺す気。
殺る気。
「なんでだろうね。手が震えて、できなかったんだ……。君が、君があんまりにも…………」
その先は言葉にせず、リータはにっこりと微笑んだ。
太陽の下で咲き誇るヒマワリのような、いつも彼女が浮かべていたような笑顔を。
「透明だったから」
「………………………え?」
「寝ている君は、初めて会った時とは別人みたいに無垢で、透明で………無邪気だった」
くすくす、と面白そうに女性は笑った。
心底自嘲気味に、笑った。
「バカみたいでしょ?ここまでした復讐者が、こんな事で簡単に殺せる機会を逃したんだから」
そんなこと、と言いかけたレンの唇を、しかし頬から動かした右手の人差し指の先で優しく塞いだ。
「だから………私を殺すのは、毒なんかのダメージじゃない。他でもない君の手で、殺して欲しいの」
だけど、と。
矢車草の名を持つ女性は言う。
「図々しくても、身勝手でもいい。約束して。これからはその力を使って、人を助けてあげて」
「……ぅ………あ…」
「君の力は強すぎる。だけど、その力を人を助けることに注げば、それはとっても素敵なことじゃない?」
力が抜けたように、リータが笑う。
「ありがと、レン君。お姉さんみたいな《愛に狂っちゃった人》には、上等な最後だったよ」
全てを諦めたように、笑う。
そういう間にも、彼女のHPは刻一刻とその残量をすり減らし続けている。
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