第十章
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第十章
「身体中に力もみなぎって」
「余計に話がわかりませんが」
「けれどお医者さんは癌は進行しているというんだ」
「それでですか」
「そう。けれどそれでも身体の調子はよかったんだ」
矛盾しているとしか思えなかった。癌は確実に進行しているというのにだ。やはりどう考えても有り得ない話であった。常識の中においては。
「とてもね」
「ですが癌は」
「そう。それはわかっていたよ」
三神さん御自身が誰よりもわかっておられることであった。
「それはね」
「しかしそれでもですか」
「うん。僕は人だすけを続けた」
死期がもう間近でもそれでもだった。
「無我夢中でね。その結果多くの人が助かったよ」
「そうですか」
「お医者さんやお薬で助かったり家庭の不和が収まったり」
「三神さんのおかげで」
「僕のおかげなのかな」
今の言葉を聞いてまた考える顔になられたのだった。
「果たして」
「!?」
今の言葉もまた僕にはわからないものだった。どうも僕のような浅輩にはわからないことが多過ぎる。三神さんのお話を聞かせてもらいながらこう思うばかりであった。
「確かに僕は人だすけをさせてもらった」
「はい」
「けれど。それは僕の意志だったのか」
「違うというのですか?」
「それがどうかというとね」
三神さんは微妙な顔になられて僕に言うのだった。
「そこがよくわからないんだよ」
「わからないといいますと」
「御仏の御意志だったのではないかな」
不意にこのようなことも仰った。
「これまでのことは」
「御仏のですか」
「今はそう思えるんだ」
今は、というのであった。
「何故ならね」
「ええ、何故なら」
「もうあと一週間程度になった」
その死期まで、である。
「その時だったんだ」
「また何かが起こったんですか」
「そう。その夜のこと」
三神さんは話された。
「枕元にね。また」
あの男が出て来たというのである。そしてまた三神さんに不思議な話をされたのだった。
「貴方は」
「久し振りだな」
枕元から起き上がらせ正対して正座された三神さんに対して言ったという。
「また会いに来たぞ」
「私にですか」
「いい顔になったな」
次に男は三神さんにこう言った。
「前に会った時よりさらにな」
「そうなのですか。さらに」
「そう。そしてそれだけではない」
男は言葉を続けてきた。
「そなたの心もまた変わった」
「変わっているでしょうか」
しかしこう言われるとついつい首を傾げられるのだった。
「私はそれは。別に」
「いや、それは真だ」
男は謙遜ではなく実際に首を捻ってしまっている三神さんに対してまた述べた。
「変わったのはな」
「左様ですか」
「そう。そして
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