交錯するは向ける想いか
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うとも、軍に隠した秘策を以って、秋斗を将として、後背に広い視点を持ったモノを置いて戦場を操る事が出来た為に。
――大丈夫。桃香は既に切り捨てる選択をしている。俺や雛里が何も言わずとも、必ず大陸を支配する王となってくれるだろう。だって、白蓮を切り捨てたんだ。王として諦観する事を決めたんだ。俺と同じ選択をしたんだから、今更何かを切り捨てる事を拒むわけが無いし、甘い考えなんかする事は無いさ。
辿るかもしれない未来の自分を殺してやりたい衝動は、諦観の選択をした桃香の強い瞳を思い出して静まっていく。
秋斗は一つ頷いてからそのまま次の戦闘に思考を向けようとして……自然な動作で隣に顔を向けた。
そして茫然と、何も無い空間を寂しそうに見つめながら漸く気付く。
――ああ、そうだ。今回は雛里がいないんだったな。
無意識の内に彼女が近くにいると……不安気ながら励ますように、労わるように底に強さを持った瞳で心配そうに見つめてくれていると思っていた。自身の弱さを見つめた時、これまでは必ずと言っていい程彼女が傍にいてくれた。
それが今ここには無い。
一人大きくため息を吐いて自分の弱さをまた自覚する。如何に彼女が自分にとっての支えなのかと。今回の出撃に向かう前の雛里の心配そうな顔を思い出して……彼の心に一つの欲が浮かび上がる。
――あの子の笑顔が見たい。
胸に大きな痛みが走った。
彼は……それがなんなのかを、今初めて理解した。
以前の世界の倫理観も相まって、
ずっと、そこに感情が向く事を無意識の内に押し留めていた事にも気付いてしまった。
自分がこの世界にとっての異物だからと持たなかったモノ。
人の心に聡い彼が、目を逸らし続けてきたモノ。
漸く気付けたモノ。
ここから進んでいくなら切り捨てなければいけないモノ。
伝えてしまい、受け入れられたら、きっと自分は全てを話してしまう。
世界の理の外の存在だと知られてしまえば、きっと恐怖や憤慨に駆られて誰もが離れて行く。
隣にいてくれたとしても、自分だけが背負う嘘つきの罪過を、優しいあの子にも背負わせてしまう。
そして詠が言っていた、今はそうではなくとも、何がなんでも助けたいモノに入ってしまうかもしれない。
だから……自分にさえも……
外から足音が聞こえ、思考を打ち切った彼はすっと顔を上げて天幕の入り口を見やる。急な人の気配の察知はもう慣れていて、踏みしめる足音のリズムは聞きなれたモノであったから。さっと天幕の入り口を開けて入ってきたのは一人の少女と大きな体躯の男。
「二人共、お疲れ。戦場の半分の指揮はお前達に任せて正解だったな。初めての戦場が多い兵達であれだけ抑え込めりゃ上等だ。後方で構えさせたから敵にはバレてないだろうし
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