交錯するは向ける想いか
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共に兵の被害は同程度。次の日も戦が続く為に陣へと引き返して束の間の休息を取り合う。
兵が奇襲への警戒や食事の用意、次の日の戦の準備に慌ただしく動き回る劉備軍の陣にて、秋斗は中央の天幕内で物思いに耽っていた。
――孫権は未だ成長途中。侵略を行う覚悟も無く、自身の誇りに引き摺られて舌戦もままならない。孫策ならば従っている振りでもしただろうに。
未だ屈辱の泥濘に叩き落とされていない身ならばそれも仕方ないのかもしれない。しかしこれで……彼女は大きくなるだろう。
先ほどの舌戦で袁術に従うつもりはさらさら無いという事実がしっかりと確認出来た事も大きい。
こちらから舌戦の途中で戦端を開いたのは助け舟。彼女が戦の理由に詰まっているのは明確であった為に行った、袁術軍の目を騙す為のモノであり、暗にこちら側には共闘の準備があると伝えておくための事。
袁術に歯向かう時機、手段、方法、全ては分からないが、今は追い返すだけでいい。何かあるのならばあちらから交渉を持ちかけてくるだろう。
袁術軍の持つ総兵数が下がるこの機を生かせないのであれば、この世界の孫呉はその程度の相手。孫策が出向いても噛みついてくるなら叩き潰すだけだが……まず無いか。
ただ、俺はまた乱世を引き伸ばしてしまった。孫権の成長を助ける事になったのなら、後に強大な敵となるのだから。
無意識の内にギシリと拳が握られていた。
舌戦の最後からずっと、孫権の悲哀に満ちた瞳が彼の脳裏から離れなかった。
秋斗は彼女の事を……自分に重ねてしまっていた。
縛り付けられた事柄から選ぶ道はたった一つであり、それを選ぶしかないのだという事を理解して尚、戦う。守りたいという想いを叩きつけられても矛盾を背負って侵略を行う存在。
孫権は秋斗に取って、桃香が覚悟を持てない場合、周りの現状で縛り付けられてしまった未来の自分の姿だった。本心からの侵略であれば問題は無く、己が望むままに叩き潰す為に動けるだろうが、現状の桃香を掲げて進んでは余りに足りなさすぎて愚かしい。
今のままでは曖昧にぼかしたまま侵略を行う哀れな道化、理想を語りながら理不尽を振りかざす自覚のない偽善者……首輪をつけられているのは誰であるのか。
ふいに、自嘲の笑みが口から零れ落ちる。
「クク、滑稽だな。未来の姿を叩きつけて心を潰すつもりが……まさか叩きつけられる側だったなんて」
不思議と心に痛みは走らなかった。ただ、その姿が憎くて仕方なくて、戦場で自ら叩き斬ってやりたい衝動を抑え付ける事に必死であった。
自身の力を驕ってはいないが、敵の練度、部隊の扱い、連携具合、どれを取っても行ける事を確信していた。
孫権をこの手で屠る程度なら、被害を気にしなければどうとでもなったのだ。例え甘寧や周泰、呂蒙がどれほど守ろ
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