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乱世の確率事象改変
交錯するは向ける想いか
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みの感情は深く昏い。
 同時に、私の心には奴の言葉が突き刺さっていた。
 相手も同じなのだ。いや、我らの過去、そして未来の姿なのだ。敵からすれば、私達は愛する地を踏み荒らす為にここに来た侵略者であり、抗って当然のモノ。
 私には……返す言葉が出て来なかった。心は抗い続けているというのに、何も言えない、言い返す事の出来ない事実も相まって、私の喉を詰まらせた。
 顔は笑みを浮かべながらも、徐晃はただ冷徹な瞳で私を見つめていた。その程度の覚悟も無いのかと落胆しているようにも見えた。
 そこで気付く。元から正統性が無い為に、舌戦に乗った時点で私の負けだったのだ。咄嗟の機転で言い返すにも限界があった。偽りでも袁術に従っている振りをすれば良かったのだ。しかし、自身の誇りによってそれを許す事が出来なかったというその点……徐晃はそこをついて来た。

「家に帰れ首輪付き。いや……俺達の怒りを受けてからでも遅くはないな! 二度とこの大地を踏めぬよう、お前達の全てを叩きのめしてくれる! 全軍、突撃せよ!」

 それは突然の号令であった。皮肉なことに……舌戦の敗北による屈辱よりも、後は戦うだけだと思考が向いて安堵している自分が居た。
 舌打ちを一つ。後に津波のように向かい来る敵に向けて剣を振りかざす。矛盾に彩られた心を抑え付けて。

「精強なる孫呉の兵よ! 来る敵を叩き伏せよ! 我らが願いの為に!」

 込み上げる悲哀も、押しかかる重責も、心をのた打ち回らせる屈辱も、全てを押し込めて指し示す。
 戦端は開かれた。私達はもう止まれない。敵がどのようなモノであろうと。
 雄叫びを上げ突撃していく兵達の背中を見ながら、私の心に深く刻まれる。
 ここは腐り果てた戦場。理不尽しか無く、甘ったるい正義等無いのだ。何を守りたいか、何を救いたいか、その目的の為に矛盾さえも貫くしかないのだと。
 人の波がぶつかり合う寸前、黒い麒麟が笑みを深めたように見えた。その笑みは私を蔑んでいるようにも見えたがどこか違い、今にも泣きだしそうな子供のようだった。
 目線を切り、悔しさと、無力さと、不甲斐無さを引き連れて、それでも私は王たる姿を見せる為に、心に仮面を被って指揮を始めた。




 †



 孫権軍は確かに袁術軍よりも精強であった。秋斗の口上と舌戦によって士気が異常な程高まっていた劉備軍相手に、練度の違う部隊を混ぜて連携の不足が目立つままで十刻に及ぶ戦闘を行っていた。
 どちらも引かず、押し込まれず、混戦する事も無く、じわじわと引き伸ばされていく時間の中、兵に多大な疲れが見え始めた頃合いを見て秋斗は一時退却の指示を出す。
 自身が戦う事無く引く様子を見て、亞莎は伏兵を警戒して追撃を不可とし、蓮華の後退指示を以って第一の戦闘は幕を下ろした。

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