交錯するは向ける想いか
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め、想いを馳せ、彼女は進む、理不尽の溢れる戦場へ。
敵がどのようなモノかも知らずに。
渦巻く風はうるさくざわめき、張りつめた空気は背に汗を流させる。
敵の部隊から突出してくる一人の男を見て、緊張が心を締め付けるも、構わずに馬を進めて行く。
近づくにつれて遠くとも鮮明になっていく瞳、その昏さに呑み込まれそうになった。私を推し量っているのか、それともただ敵としてしか見做していないのか。
気圧される事は無いと心を強く持ち、無言で睨み付ける事幾分、男はほんの小さく笑った。その笑みは何故か……姉様と同じモノに見えた。
「あれだけ無様な醜態を晒しておいて、性懲りも無く俺達の安息の地を踏み荒らそうというのか『袁術軍』よ」
真っ直ぐに向けられる言葉は事実であろう。治める地を得たとしても、未だに私達は奴等に首輪をつけられているのだから。
激情が胸に込み上げ、心にズキリと痛みが走る。
――あのような輩と一緒にするな。お前に……私達の何が分かるというのだ。
すぐにでも叩きつけそうになる言葉を呑み込みギリと歯を噛みしめてその男を睨んだままでいると、呆れたようにため息を一つ。
「虎ならば噛み砕こうと口を開いてきただろうに……所詮は飼い猫、噛みつく事も出来んなら怯えたままで家に籠っていろ」
私の胸にさざ波を作り出す言葉。男のやろうとしている事は分かっている。これは挑発だ。初戦もそれでのこのこと安易な突撃をしていいようにあしらわれたと情報にあった。
ここには袁術の耳もあるのだ。私個人の感情程度で易々と計画を破綻させてたまるか。
「ふふ、下らん挑発には乗らんぞ徐晃。怯えているのはお前であろう。鳳統も張飛もおらず、我らと戦う事が怖くて仕方ないのだろうに」
こちらは動じていないと兵に見せつけるように笑みと言葉を返した。論点をずらせばいい。敵から兵に与えられる不審を変えてやればいい。侵略を行う袁術に従うしか無い我らには大義名分など無い。ただ、袁術の将である事を堂々と口にするような事だけは……私には絶対に出来なかった。
これが舌戦か。
相手の立つ場所を弁舌で切り崩し、心の立つ場所を奪い合う。まさに言葉による戦。
突然、その男は高らかに笑った。心底可笑しいというように、バカにした笑いでは無かったが、無性に私の心を苛立ちに染め上げた。
「クク、ははは! 下らん挑発ねぇ……お前ら! あいつらは俺が、俺達が怯えていると言って退けたぞ! 自分の暮らす土地を守りたいが為に戦場に立つ俺やお前らが怯えるわけないのになぁ!?」
瞬間、弾けるような無言の激情が戦場に溢れかえった。
敵兵の誰も彼もが怨嗟の炎を瞳に燃やし始め、先頭に立つ私を射殺さんばかりに睨みつける。向けられる憎し
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