交錯するは向ける想いか
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みしめ、自身に圧しかかる重責と戦っていた。彼女は今、自分の妹と慕ってくれている兵達の命を秤に乗せている。傾く方向は既に決められていて、選べるモノは一つしかないモノではあるが。
誰に頼る事も出来ない。決めるのは自分で、背負うのも自分自身。乱世に並び立つ王の誰しもが越えて来た、越えなければならない壁であった。
目の前に迫って初めて、彼女は王というモノを理解した。この戦場に至るまでに煮詰めて覚悟が出来ていなかったのは彼女の、いや、彼女達の不手際。だが、それもまた功を奏していると言ってよかったのだろう。
「亞莎……いや、呂蒙。成功させる為にすべきことを述べよ」
凛と、天幕内に響く声音は透き通っており、その場にいる誰しもの背筋を伸ばさせた。
先ほどまでのどこか緩い空気は払拭され、その場にいる誰しもを厳しい面持ちに変えた。
「は、はい。まずは――」
つらつらと亞莎が今回の戦で行う最良の手段、戦い方を話していく最中も、蓮華は目線を上げずにじっと下を見続けていた。
「と、いう流れがよいかと」
「周泰、甘寧の二人に何か良き案はあるか」
目をみて聞かない事は無礼であったが、己が主の心境を予測して、そして有無を言わさぬ声音に圧されて二人共が己には何も代案が無いことと、亞莎の案への賛同を示す。
それを聞いて、蓮華はゆっくりと顔を上げた。覚悟の光が溢れる瞳は見据えられた誰しもがその場に膝を付いてしまう程の覇気を叩きつけ、知らぬ内に三人は頭を垂れていた。
「我が臣に命ずる。呂蒙が計画を必ず成功させよ。我らが大望の為に失われる命、無駄にする事は許さんぞ」
御意、の三つの声が上がり、一言も発さずに彼女達は天幕を出た。
先頭を歩く蓮華の背は広く見え、付き従う三人に信頼と期待を与えた。
例え選択肢が決まっていたとしても、真の王たるモノに変わる為には時間を要する。追い詰められ、無理やりに叩きつけられた現実は、有無を言わさず彼女を成長させ、揺れない芯を持たせることに成功した。
「これより戦場へ向かう! 相手は黒麒麟徐晃率いる劉備軍、我らが力を世に示す良き機会となろう! 精強たるその力を存分に振るい、我らが大望を果たす為に戦え!」
整えられた兵列の前、戦場へと向かわせる王の声は気高く、全ての兵に希望と力を与える。
覚悟を高める事に時間を掛けていれば、優しい彼女は威風堂々たる様ではいられなかっただろう。生来の真面目さから自分を責めて、少しだけでも、悲哀に暮れた瞳を向けてしまっただろう。
行軍を始め、王の高みへと踏み出した彼女は付き従う者達に悟られぬように心で涙を零す。
――この先に……必ず笑顔溢れる治世を作ってみせるから。私達がお前達の望んだ世界を作ってみせるから。
祈りを込
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