交錯するは向ける想いか
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。戦うのは俺とお前たち一人一人なんだから他人なんかに易々とその想いを預けてくれるな。死んでしまうその瞬間まで誰かを守ろうとあり続けろ。死んじまった時だけ、俺がその想いを引き継いでお前らの大事なモノを守る為……いや、それが守られる平穏な世を作り出す為に戦う事をここに誓う」
冷めた目で淡々と語られた言葉は兵達を呑み込む。
新参の兵には戦争を行う為の覚悟が足りない。秋斗はその心に不足分を叩き付けたのだ。誰かを頼る心は戦場で大きな隙を生み、個としての想いを曖昧にしてしまう為に。
練兵の時よりも戦場の真ん前で行えば、兵の一人一人がしっかりと意識を向けられると考えての事。戦前に於いて心が緊張や恐怖でブレている兵達は自分より上位な存在からの言葉を逃すことなど出来ないのだから。
「前を見てみろ、隣を見てみろ、後ろを見てみろ」
言われたままに首を回す兵達は互いに目線を合わせていく。直ぐに決意の灯った瞳を掲げているモノもいれば、どこか不安そうに見えるモノ、自分も同じような顔をしているのだろうかと感じる兵も少なくない。
視線が交差する場を見回しながら、秋斗は兵達へ尚も言葉をつらつらと紡いで行く。
「お前らが守るモノは故郷に残してきたモノと自分自身とそいつらだ。今、目に見えているモノは短い間でも同じ釜のメシを食った平穏な世を願う同志であり、大切なモノを守りたいという自分自身であり、死んじまったらお前らの宝物を代わりに守ってくれる奴ら、そして……一緒に自分の家を守らんとする大切な家族だ」
じわりと、兵達全てに伝えたい想いが浸透し、一人……また一人と秋斗に視線を向けて行く。明確に守るべきモノを示され、誰しもが自分が為すべき事を確かめ合う。
徐晃隊と似ているが少し違う思考誘導、それは一人の友を参考にして行われていた。
己が住処を守りたいという願いを纏めるならば、彼女は一番の存在であろう。他の劉備軍の面々では無く、近くでその想いに触れてきた秋斗だからこそ、想いを込めて語る事の出来る口上であった。
ふと、今は遠き大地にて戦う三人の友の笑顔を思い出して、秋斗は懐古の念から笑みが零れた。その微笑みは優しくて、精神が張りつめている兵達に少しの安堵と思考の空白を齎す。
「クク……問おう、お前達はこの地を守りたいか?」
冷たい瞳では無く、強い意思を宿した光を灯して思考の隙間に放たれた問いかけは、兵達の心をたった一つへと駆り立てて行く。誰かに守って貰うでは無く、自分の意思で、自分のこの手で守りたい……そうして心底からの想いが共有されていく。
数瞬の間を置いて、『応』と……全てを呑み込むような、乱れの無い返答が荒野に上げられた。もはや不足分は埋められた。新参なれども彼らは真の守り手となったのだ。
その声、その眼、その心を見て
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