オリジナル/未来パラレル編
第11分節 高司夫妻 (2)
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咲は出されたお茶を啜って心を落ち着ける。
「ふたりは神社で働いてるの?」
「うん。あたしは巫女と神主見習い。ミッチは奥様に付いて裏方全般。ミッチ、細かい段取り上手なんだよ〜」
「僕なんて奥様の足元にも及びませんよ」
「……あの〜、聞いていい?」
咲はおずおずと手を挙げた。
「何でふたりともわざわざ沢芽市出てったの? 今はどこ行ってもヘルヘイム化が進んでるのに」
これには舞があっけらかんと答えた。
「いわゆる、かけおちってやつね」
「か、かけ、かけおちぃ!?」
そろそろ咲の中で色々な何かがオーバーフローしそうだ。
光実と舞の話を総括すると、こうだ。
――チーム鎧武の頃から舞が気になっていた光実は、状況や心理戦を駆使してとにかく舞にアプローチした。
舞もヘルヘイム侵食からの世情不安があってか、光実の交際申込みについに肯いた。
だが、問題は恋仲になってからだった。
光実の厳しい兄・貴虎が、光実本人が選んだとはいえ、社会的後ろ盾もない一介の女子との交際を認めるはずもない。ましてや結婚など不可能に近い。
そして貴虎がその気になれば、呉島の家の力は沢芽市全体に及び、光実はたちまち囚われる。逆ロミオとジュリエット状態だったのだ。
若い二人の決断は速かった。光実と舞はかけおちしたのだ。
そこから各地を行ったり来たりをくり返し、苦労に苦労を重ね、この町の神社に辿り着いた。
「ちょうど結婚式の日で、『ああいうのいいねえ』って言ってたんだよね」
「そのまま参拝するでもなくずーっと境内にいたんで、神主が声かけてくださったんです。きっと変なカップルって思われたんでしょうね」
神主夫妻は光実と舞の事情を聞くと、二人に神社で働くことを勧めた。神社には跡目がおらず、これも神様の結び合わせた縁だ、と言って。
「げ、激動の半生……」
「今は、あたしは、お世話になってる神社の神主やれるように」
「僕は、将来神主になった舞さんをサポートできるように、神社の裏方のノウハウを勉強中です」
そこで光実は隣の舞を、顔を赤らめて見た。舞も心得てか、光実が出した手に手を重ねた。らぶらぶである。当てられそうだ。
「その『将来』もまずはヘルヘイムをどうにかしねえと来ないからな。新婚早々悪いけど、ミッチには俺の仕事を手伝ってもらってる」
「ミッチがいないと紘汰は採算度外視だもんねえ」
「目の前で人がインベスに襲われてるの見たら放っとけねえだろ」
葛葉紘汰の性向は9年経っても変わっていないらしい。その上、かけおちなどした光実と舞への接し方も、温かく明るいまま。何よりそのことが咲を安堵させた。
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