女の子と小鹿
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ほぼ同時だった。
「はっはい?!」
あまりにもことで虚を衝かれたルヴァーナは無意味に声が上擦ってしまい、開け放たれたドアから入ってきた人物を見て余計に顔が火照った。
「おっお兄ちゃん!?」
「しーっ」
先程とまるで同じリアクションをされ、軽くショックを覚えながら三人はイザベラとノアを起こさぬよう物音を立てずに廊下に出た。
心無しか終始、彼が兄の背中を睨んでいたが、派閥争いか何かだろうと思い込み、大して気にも留めなかった。
「それでどうしたの?」
そう口にしたのは彼女だった。
ドアを閉めてから何故か誰も声を発せず、しばらくの間妙な沈黙が流れたのを見兼ねて上げた声も気圧されたのか、どことなく控えめになってしまう。
とりあえず店にいたはずのアズウェルがどうしてここにいるのか聞いてみよう、急ぎの用件なら尚更だ。
だが、その返答は妹の考えていた事態ではなく、至極ごもっともな正論だった。
「やれやれ、今何時だと思っているんだい?閉店時間過ぎても帰ってこないから心配したじゃないか」
制服のズボンの中から取り出した懐中時計の文字盤は確かに、十七時半を指そうとしている。
「ええっ!!もうこんな時間?!……またミレイザに迷惑を掛けちゃったな」
「大丈夫だよ。彼女もさっきまで眠っていたから返って悪いことをしたと言っていたよ」
下の階からは夕飯の支度をし始めたのか、何やらがやがやと賑やかになってきた。
「僕はシュネーちゃんの顔を少し見てから変えるから夕飯は頼んだよ」
階段を上ってきた匂いが三人の鼻腔を侵し、冬眠を知らない腹の虫を呼び覚ますには充分すぎた。
ふふっと、上品に笑う姿にいつもならば見惚れるはずのルヴァーナだが今の彼の背後からは何か寒々しいものを感じて思わず体が強張る。
そう言えば、今日の夕食当番は自分だった。
普段は怒らない兄だが、昔約束をすっぽかした後何ヶ月か口を利いてくれなかった事がある。
そんな裏の面があることはファンの誰一人知らないだろう。
「あっ…はい。直ぐ支度をしてきますっ!」
「危ないから走っちゃダメだよ」
「はいっ」
壊れかけのブリキの兵隊のように手と同じ方の足をぎこちなく上げ、階段を下りる姿をお得意の上品な笑顔で見送るのは自分を睨む主への嫌がらせか、それとも…。
「………………随分と躾けてるんだな」
「僕の大切な妹に失礼なことを言わないでくれるかな」
先程まで子供部屋の中で話していた同一人物とは思えぬほどの声色を下げたセージに対し、口調はそのままだがやはり、その艶かしい
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