女の子と小鹿
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村人があの森を執拗に恐れるのは、この可愛らしくも残酷な物語が関係しているのかもしれない。
しかし、彼女はこの童話が大のお気に入りだった。
ぶどう酒に甘いケーキを籠に詰めて森の中を歩く姿は、ノアにとって父や義兄などの猟師に続く勇者なのだ。
その域はまだ物心の付かない頃、彼女の被っていた赤い頭巾が欲しいと駄々をこねたほどだ。
既に傷み始めている箇所に気を配りながらページを進めていくにつれ、その独特の音に誘われたのか姉の方は舟を漕ぎ出し、それに釣られた妹の方も目元を擦ってどうにか抗おうとするが、やはり全てを読み終える頃には 二人仲良くルヴァーナの膝の上で安らかな寝息を立てて眠ってしまった。
時折、何かの夢を見ているのかその顔が笑うのを見ていると、こちらまで幸福感で満たされてゆく。
子供は無邪気だが、大人になってしまえば置き去りにしてしまった何かを思い出させてくれるような存在だ。
とは言え、彼女も第一子を出産したばかりのミレイザもまだまだ子供だ。
大人にはまだ程遠く、かと言って子供のままでもいられない年齢。
それなのに、こんな気持ちを抱いてしまう。
………………そして、以前にも似た感情を覚えた気すらしてしまうのはどうしてなのだろうか。
「すっかり母親だな」
「セージさんっ」
いつの間にやら来ていたのか子供部屋のドアに凭れ、しーっと口元の前で指を立てて笑う彼に釣られて両手で隠した。
「もうっ……いつ来たんですか?」
「あれ?ちょうどお嬢ちゃんたちが舟漕ぎ出した辺りだけど。もしかして気づいてなかった?」
…………ええ、気づきませんでしたよ……微塵にも。
全く、コンラッドと言い、彼と言い、どうしてこうも上手く気配を殺せるのだろう。
セージはルヴァーナたちより一つ上の十七歳。
性格はあの弟の兄でありながら物腰が柔らか………………いや、軽いと言った方が正しいのかもしれない。
三兄弟揃って猟師の才を色濃く受け継いだようだが、当の本人は獣よりも女の子に興味があるらしく、一番上の兄に連れられて初めてこの村に訪れた時にはアズウェルのファンの中から何人か引き抜いたようだと親友から聞かされたが、まさかその人物と話す日が来るとは想像すらしていなかった。
だが、二人をそれぞれのベッドへ移動させるのを進んで手伝ってくれる姿に、もしかしたら結構良い人なのかもしれないと第一印象が少し色を帯び始めていく。
「ところでさ…」
すやすやと眠る幼き姉妹の顔を眺めている彼女に先程とは違い、どことなく躊躇うような口調でセージが話しかけてきたのと子供部屋のドアが軽くノックされたのは
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