女の子と小鹿
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「ふっふっふっ…甘いわよ?この時のために不器用な私が一から母に頼んでお裁縫を習ったのよ。ほら見てよっ!昨日作った靴下だってこんなに可愛くできたわ」
今まで何処に隠し持っていたのか、掌に乗せた小さなそれは足首までの長さは一般的なものと変わらないが、問題はそこではない。
ただの装飾品のはずの白いレースがこれでもかと、言うぐらいにぐるぐると靴下の周りを囲んである。
………………一体、どうやって作ったのだろう。
「確かにベビー服はフリフリなのが多いし、シュネーちゃん可愛いよ?……でも、男の子だよ?」
「何言ってるのよ。あなた、私の小さい頃からの野望知っているでしょうが」
ええ、………………それは耳にたこができるほど聞いていますとも。
あれは忘れもしない六人目の妹が産まれて数日後の学校からの帰り道だった。
『私っ、絶対男の子を産んだら物心付くまで可愛い格好させるわ』
夕焼けの光が亜麻色の長い髪に透け、思わず見惚れて聞いていなかった彼女は一瞬何を言い出したのか解らず、瞬きを繰り返していた。
ミレイザはそれを咎めるわけでもなく、まだ見えぬはずの未来に期待を膨らませ、今にも山の端に消え入りそうな陽を見上げていた。
女装させるには勿論、彼女なりの理由がある。
復讐である。
家のためならば例え女の身であろうとも継げただろう。
それでもダメならば妹の誰かでも訓練すれば病持ちの動物ぐらい仕留められただろうに父親はそれさえも拒み、あくまで男の子を望んだ。
その結果が家とも呼べない混沌とした巣窟を作り出した。
母親は優しい人だった。
彼もそんな彼女を愛し、自分を含めた七人の子供を求めたのだが、まるで何かの罰のように待望の男の子とは違う性ばかりが産声を上げた。
その度、「男の子ではなくてはならない」、「何故君との間には女の子しか産まれない」などの彼の執拗な責めをまともに受けてしまい、次第に母は病んでいった。
実際に幼い妹たちを育て、それでも家としてあり続けなくてはと支えていたのは自分を含む然程手の掛からなくなった三人の娘だったと言っても過言ではないだろう。
今はそれほどでもなくなったが、当時は目が覚める度自殺紛いをする彼女を三人がかりで止めていたことが昨日の事に思える日が来るなんて……全く以って笑えない。
追憶なんて……村の近くにある鬱蒼として誰も近づかない森の奥深くにでも眠ってくれれば良いんだ。
……そうすれば、ルヴァーナもこれ以上苦しまずに暮らすことが出来るだろうに。
「おねえちゃん、おねえちゃん!えほんよんでっ」
その声が足元から
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