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嘆き
第七章
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な笑みでの返答であった。
「そのことがな。何よりもじゃ」
「またそれはどうして」
「終わったということだからじゃ」
 彼が言うのはそこであった。
「仕事がな。だからじゃ」
「それでござるか」
「やはり何事も無事終わらせなければならぬ」
 ここには家光自身の考えがありありと見えた。
「だからじゃ。それが嬉しいのじゃ」
「左様でござったか」
「そなたの父がおるな」
「はい」
「但馬じゃが」
 どういうわけか今はいなかった。彼とても忙しい身であるのでそうそう一つの場所にはいられないということであろうか。真実はどうかわからないが今ここにいないのは確かであった。
「言われたのじゃ。何事も終わらせなければ意味がないと」
「終わらせなければ」
「もっとも剣の世界に終わりはないであろうがな」 
 剣道である。これは果てしのない世界だと言われている。腕もそれを使う心も何処までも精進し磨かれていくものとされるようになってきたのもこの時代辺りからである。
「それでもじゃ。仕事は」
「終わらせなければならないと」
「そういうことじゃ。さて」
 また笑いながら言うのだった。
「褒美は何がいいかのう」
「それに関しては別に何でも」
「いやいや、そういうわけにもいかぬ」
 無欲な十兵衛を宥めにかかった。家光も将軍としての心構えがあるのだった。
「さあ、好きなものを言うがいい」
「そうですな。それでは」
「うむ」
「上様とお手合わせ願いたいものですな」
 屈託のない笑みでの言葉であった。
「また。それで如何でしょうか」
「余とか」
「左様でござる。それで如何でしょうか」
「ふむ。そうじゃな」
 家光もその笑顔で彼の言葉に応えるのだった。
「ではそうするとするか」
「親父殿立会いのもとで」
「こらこら、それは駄目じゃ」
 家光はそれに関しては笑ってよしとしなかった。
「何故でございますか」
「但馬は口煩い」
 大目付だけはあるということだ。
「しかも心配性じゃ。御主が何時何をしでかすのかと思い気が気でならんぞ」
「それがいいのでござるが」
「やれやれ、何時まで経っても」
「拙者永遠の悪戯者でござる故」
「それも程々にせい」
 家光のこの言葉が最後になった。かくして但馬を抜きにして彼と十兵衛の剣の手合わせは行われた。だがそこで十兵衛は手を抜かず家光をのしてしまった為にまたしても但馬を怒らせることになったのだった。当の家光はこのことを一切気にせず笑っていたとしてもだ。


嘆き   完


                  2008・8・7

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