第二部
第三章 〜群雄割拠〜
百八 〜波乱の旅立ち〜
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流れは然程速いものではない。
だが、船足はかなり遅い。
それに、喫水がかなり下がっているように見える。
……不意に、悪寒が走った。
「全ての船に、直ちに川上に向けて散開するよう伝えよ」
「ご主人様? 一体何が」
「説明している暇はない。急げ!」
「は、はい!」
愛紗や蓮華が慌てて指示を出し始めた。
本来、蓮華にはそのような権限などないがそれどころではない。
「紫苑、恋。あの船に、ありったけの火矢を撃ち込め」
「火矢、ですか?」
「そうだ。急げ」
「ぎ、御意です」
「……ん」
船の散開は遅々として進まぬようだ。
こうなれば、先手を打つより他あるまい。
「歳三様。準備が整いました」
「よし。放てっ!」
合図と共に、二人と弓兵が次々に火矢を放つ。
矢の届く距離ぎりぎりでは、精度は期待出来ぬ。
それでも、何本かは相手の船に突き刺さった。
そのうちの一本が、船倉に飛び込んだようだ。
やがて、硫黄の香りが漂い始めた。
「全員、河に飛び込め!」
間に合わぬと判断した私は、皆に叫ぶと黄河に身を躍らせた。
あちこちから、水音が続く。
そして、轟音と共に彼の船が吹き飛んだ。
近くにいた船は、巻き込まれて被害が出始めた。
やはり、か。
「ご主人様! お怪我はありませんか!」
「大丈夫だ」
幸い吹き飛ばされた者はおらぬようだが、爆発は尚も続いている。
「紫苑、恋。礼を申す」
「いえ」
「……兄ぃが無事で、良かった」
無事だった船が、救助の為に此方に向かってくるのが見えた。
しかし、一体何者がこのような真似を企んだのか。
必ず、下手人を突き止めねばならんな。
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