第二部
第三章 〜群雄割拠〜
百八 〜波乱の旅立ち〜
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「本当に行ってしまうのか」
「はっ。交州を長く留守にし過ぎています故」
陛下は、名残惜しげに頭を振る。
「白蓮が残ります。それに、諸侯には新たな争いを引き起こす余力はありますまい」
「それはわかっておるつもりじゃ。ただでさえ寂しくなった洛陽が更に静かになると思うとのう」
「陛下……」
隣に控える月の表情も優れぬ。
だが、ここで情に流される訳には参らぬのだ。
「歳三。今一度聞くが、決心は変わらぬのじゃな?」
「御意。私には不相応でござりますれば」
「お主こそ適任と思うがのう。異を唱える者も最早おるまいて」
一度、陛下から大将軍にとの打診があった。
何進は既にこの世から去り、後を託すべき人物も見当たらぬ……それが理由との事だ。
私の前世であれば、将軍職を任せると言われたに等しい。
無論、徳川幕府とは大きく異なるのだが、武士の頂点に立つという意味では同等。
武士になりたくて百姓を捨てた私にとって、過分な申し出と言えるであろう。
だが、私にはその気はない。
武士になる宿願は既に果たしている以上、それ以上の立身出世など不要。
ましてや、天下に号令をかけるが如き立場など望むべきではない。
……その気になれば陛下に成り代わる事も夢ではないが、そんな真似をしても詮無き事。
漢王朝が滅び行くのは止められぬにしても、その介錯を私がする必要など何処にもない。
「陛下。例えそれが勅命であろうとも、私はお受けするつもりはございませぬ」
「しかしのう」
「それが容れられぬとの事であれば、野に下るまでの事にござる」
付き従う庶人や兵らの事を思えば無責任やも知れぬが、望まぬ地位に立たされるのであればそれも一つの道。
権力に目が眩んで道を誤る真似は断じて出来ぬのだ。
「……そうか。惜しいの、つくづく」
「申し訳ござりませぬ」
「いや、朕が悪かった。この話はもうせぬ」
そう仰せになると、陛下は深く溜息をつかれた。
「では陛下。そろそろ出立の刻限にござりますれば」
「うむ。道中気をつけての」
「ははっ」
「お気遣いありがとうございます、陛下」
私と月は、合掌して礼を取った。
城門の外には、既に軍が勢揃いしていた。
「歳三。謁見は終わったのか?」
「うむ」
「そっか。……なあ、また会えるよな?」
寂しげに笑う白蓮。
「約定を違えるつもりはない。陛下を頼むぞ?」
「ああ、微力を尽くすよ。それに、私一人じゃないしな」
そう言って、傍らにいる少女の頭を軽く叩いた。
伊籍こと、雅。
劉表に仕える忠臣であったが、先日より洛陽にいる。
出奔ではなく、劉表の命によるものだ。
荊州はますます蔡
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