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嘆き
第四章
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て余計に必死になって彼を止めにかかってきた。
「何が出るかわかりませぬ故」
「ここで一晩ですか」
「そうです」
 その必死な顔で頷くのだった。
「粗末ですが食事もあります。ですから」
「宜しいのですな」
「はい」
 是非共といった感じの返答であった。
「ここにお泊まり下さい。宜しいですね」
「わかりました。それでは」
「ただし」
 ここで彼は十兵衛に対して緊張で強張った顔で告げるのだった。
「一つ御願いがあります」
「御願いとは」
「決して外には出ないで下さい」
 その強張った顔で彼に願っていた。
「それだけは御願いします」
「外にですか」
「とにかくそれだけは御願いします」
 念押しさえする。十兵衛はその理由がわかっていた。しかしやはりここでもそれを表に出すことはなく知らない顔で応えるばかりであった。
「宜しいですね」
「わかり申した。それでは」
「ではこちらへ」
 中を指し示して彼を案内しだした。
「一晩。ごゆるりと」
「かたじけのうございます」
 こうして彼は寺で一晩の宿を取ることになった。食事は寺らしく精進ものであり実に質素であった。当然酒はない。だが十兵衛はその質素さに寺の、そして法善の徳を見て心を打たれるのだった。それと共に哀しいものさえ感じてはいたのだが。

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