第十一章 追憶の二重奏
第四話 初めての―――
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そこには士郎の姿は何処にもなかった。
慌てて周りを見渡すが、影も形も見ることは叶わない。流石というか、あの目を離した数秒で、遮蔽物のないこの草原から見えなくなる距離まで逃げ出すとは―――。そのとんでもなさを変なところで見せる士郎に、しかし残された四人は不敵な笑みを向ける。
「っッ!! 逃げたなっ!?」
「くっ、馬鹿めっ! 既に逃げ場がないことに気付かないとはっ!」
そう、士郎には逃げ場がなかった。
何処かに隠れるとしても、ほぼ確実に逃げ込む先は学院に決まっている。
そして学院であれば―――。
「直ぐに招集をかけろっ! 全男子生徒―――いや、学院の全漢に声をかけろっ! 今こそ決起の時だとっ! 溜まりに溜まったこの怒りをぶつける時がやってきたとっ!」
そう、様々な理由で士郎に恨みを持つ者は多い。
これまで溜まりに溜まっていた不満や恨み等を晴らしたいと感じているものは、学院には山ほどいる。それは生徒だけではなく教師の中にも多くいた。その全員に声を掛ければ隠れる場所など何処にもないだろう。
「草の根分けても探し出せっ! 今ここで逃せば奴は必ずもっととんでもないことをしでかすぞっ!」
「これ以上奴の棒に暴れられては、ぼくの棒の使い道がなくなってしまうっ!」
切実な想いに満ちた声で叫ぶマリコルヌ。
士郎がいなくてもどっちにしろお前の棒の使い道なんてねーよと思いながらも、誰も口にしないのは仲間であるからなのかそれともただの同情なのか?
「それならば、いっそヤられる前に殺ってやるぜぇっ!!」
「奴さえ、奴さえ殺れば、ぼくも棒を使う機会が必ず―――!!」
「追えっ! 追えぇぇぇええッ!!」
先程までの疲れ果てた様子は何処へといったのだと言う様子で、ギーシュたち水精霊騎士隊の四人は奇声を上げながら士郎を追って学院に向かって走り出した。
「―――さて、皆に集まってもらったのは他でもないわ」
カーテンが締め切られた薄暗い部屋の中に一人の女の声が響く。女の声は低く微かに震えており、その心の内が現れていた。決して広いとは言えない部屋の中には、声を上げた女以外に四つの影があり。そのどれもが女であった。壁際、椅子、ベッドの上等、女たちは部屋の中、それぞれバラバラの位置に陣取っている。
蹲り顔を伏せたままの者。
眠たそうにアクビをする口元を手で覆う者。
落ち着き無くオロオロと辺りを見渡している者。
面白そうににやにやと口元を緩めている者。
それらを見渡した女―――キュルケが、握り締めた拳を眼下のテーブルに叩きつけた。
ドンッ! と太く大きな音が部屋に響き、部屋の中にいる女たちの視線が集まる。
「―――シロウがミス・カトレアに手を出
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