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剣の丘に花は咲く 
第十一章 追憶の二重奏
第四話 初めての―――
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悲鳴を上げそうな震える声で「まさか―――ッ!?」と何度も口の中で呟くレイナール。
 まだ大丈夫だ。
 決定的な答えはまだ聞いていない。
 そう、そうだ。
 ある訳がない。
 あの数多ある漢の夢の中の一つ。
 ふわゆる系おっとりナイスバディおねえさんまでもがあの男の毒牙にヤられているなど、信じら―――。

「隊長の毒牙にヤられた」

 ―――儚い夢であった。 

「嘘だああああああああ―――ッ!!?」

 膝を砕かれたかのような勢いで地に膝を落としたレイナールは、拳よ壊れろとばかりに地面に握り締めた右手を振り下ろす。頬を伝う熱い水が地面に落ち黒い染みを作り出していく。

「おいっ! 待てっ! 勝手に決め付けるなっ! 俺とカトレアはそんな関係じゃ―――」

 士郎は泡を食った様子で立ち上がると、ギーシュに向け両手を左右に大きく広げ無罪を訴えるが。
 ギーシュは目が全く笑っていない顔で口元だけ笑みの形に曲げた後、ゆっくりとそれを開き。

「『凄かった』と、この間本人(ミス・カトレア)に直接聞いたら教えてくれましたよ」
「あの子何言ってんのっ?!」

 今度は士郎が膝を撃ち抜かれたような勢いで地面に膝を着くと、頭を抱えていた両手を勢いよく下に叩きつけた。
 身内からの裏切りに衝撃を受ける男に、ギーシュは淡々とした様子で追い討ちを掛ける。

「将来的には男の子二人と女の子一人が欲しいとも言ってたね」
 
 ―――否、平静ではなかった。
 蹲る士郎の背中に向けて放たれるギーシュの声は僅かに震えており、それは内心に渦巻く負の感情を思わせるには十分なものであった。

「―――ふ、ふふ、ぼ、ぼくはその時初めて本当の『殺意』というものを知ったよ」

 同じく平静さを保っているように見せながらも、マリコルヌは組んだ腕を掴む手に血管を浮き上がらせながら深く頷く。

「奇遇だねマリコルヌ。ぼくも丁度今そんな気分だよ」
「どうする? 他の奴にも教えて囲んでボコる?」
「そうだね。いくら隊長でも学院の男全員と殺れば何とかなるだろうし」
「少なくとも学院長は絶対参戦するだろうね」

 顔を付き合わせ、淀みなくこれからの事を話し会う四人。ある程度の行動を決め終わると、四人は円陣を組み握り締めた拳を天へと突き上げた。

「よしっ! では早速招集をかけろっ!」
「標的は全学院いやッ! 全世界の男の敵っ! エミヤシロウッ!」
「戦じゃッ! 戦じゃぁあああっ!!」

 マリコルヌが顔を真っ赤に野獣のように吠え立てる。
 そんな様子を満足げに頷きながら見ていたレイナールは、嗜虐心に溢れた笑みを口元に浮かばせ、ゆっくりと士郎に顔を向ける、が。

「隊長。年貢の納め時です―――あれ? いない?」

 
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