第十一章 追憶の二重奏
第四話 初めての―――
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になった顔でピタリと止まり、ロングビルに向けられたキュルケの口は大きくぱかりと大きく広がる。
そんなキュルケを目を細め悪戯っぽく笑んだロングビルの目が歪む。
楽しげに、微笑ましげに―――。
「―――『初恋』が正しいだろうね」
「―――ぇ?」
肩越しに顔だけこちらに向けていたロングビルが笑いながら口にした言葉が一瞬理解出来ず、小さく息だけが通れるような細く口を開いた姿でキュルケが固まる。固まったキュルケの視線の先、顔を前に戻したロングビルが肩上に上げた右手を振りながら部屋を去るロングビルの背中が映った。
ロングビルがドアノブに手を伸ばしても、扉を開けても、背中が部屋の外に向かっても……そして扉がしまっても、キュルケは一切の声を上げることは出来ないでいた。
一人部屋に取り残されたキュルケは、ベッドの上、固まったように閉じたドアに視線をつけたまま動かない。
一分、二分と時間が経つと、キュルケは唇を震わせながら酷く動揺した声で独白を始める。
「『初恋』? え? いや、そんな筈……」
扉に向けていた視線をベッドの上に落とす。
「……え? まさか……」
視線の先にあるシーツのように頭の中が真っ白になりそうなのを、必死に押し止め、キュルケは無理矢理過去を回想する。伏せた顔。しかし、微動だせずシーツに向けている顔とは違い、目の中の瞳は激しく揺れている。
どれほどの記憶を遡っていたのか、それとも何度も記憶を回想しているのか? 今までで一番長い閭Lュルケは動かない。
十分? それとも一時間? 長い時を掛け、固まっていたキュルケの身体が動き出す。
身体が小刻みに震える中、伏せていた顔を上げる。
褐色の肌を淡く桃色に染め上げ、泣き出す直前のような潤んだ目はどこを見ているのか、その視線はふわふわと揺れていた。
のろのろと動き出す両手。辿り着いた先は、服の上からでもハッキリと分かる程大きな胸の上。大きく膨らんだ胸の上からでも感じられる程、高鳴っている心臓がある位置。胸を押さえる両手が跳ね除けられそうな勢いで鼓動が鳴っている。その強さと激しさに、訳も分からない恥ずかしさが沸き上がり、褐色の肌を更に赤く染め上げてしまう。
際限なく高鳴り続ける鼓動に押されるように、開いた口から声が溢れる。
上気した頬。
夢を見ているかのように潤み揺れる瞳。
高鳴る胸を抑え、小動物のように小刻みに震える身体。
熱く、濡れた泣き声のような声。
その姿は、何処からどう見ても―――
「―――ッ、ぅ……は、『初恋』……なの?」
―――恋する少女の姿であった。
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