第十一章 追憶の二重奏
第四話 初めての―――
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知っていたかのように直ぐに頷いたロングビル。
ひと呼吸も置かず頷いたロングビルに何か言うこともせず、キュルケは話しの続きを口にする。
「……その時言われたのよ。『君の言う『好き』は、恋の『好き』とは違う』……『面白いおもちゃに対して感じる『好き』だ』ってね」
「そりゃまた……で、あんたはどうしたんだい? 怒った?」
キュルケから聞く士郎のハッキリとした物言いに、ロングビルの口元に薄く笑みが広がる。
「怒らないわよ……ただ、不思議と納得した」
「納得?」
「多分、今思えばずっと前からその事に気付いてはいたんだとは思う。ただ……認められなかっただけで」
「認められない?」
「だってそうでしょ。それを認めるってことは、あたしが今まで恋だと思っていたのが、ただのおママゴトだって言ってるようなものじゃないの。そんなの認められる訳ないでしょ?」
ベッドのシーツを強く握り締め、キュルケは伏せた顔の下、唇を噛み締める
「ならどうして、シロウから指摘された時、否定したり、怒ったりしなかったんだい?」
「……だから、分からないって言ってるでしょ。自分でも何であの時あんなに大人しくしてたか分からないんだから……」
ぷいっ、と首を横に振ったキュルケの姿に、ロングビルは小さく溜め息を吐くように相槌を打つ。
「……そう」
「ただ……あの時、シロウにキスされたんだけど」
「―――キスッ?!」
思考の外の言葉にロングビルの腰が反射的に椅子から離れ、ガタリッ! と椅子が大きく揺れる。
「……額によ」
「あ、そう……」
上げかけた腰を下ろしたロングビルは、背もたれに力なく寄りかかった。
そんなロングビルに同調したわけではないが、キュルケもズルズルとシーツを波たたせながらベッドの上に身体を倒し、ごろりと寝転がる。
ベッドの上に寝転がったキュルケの頭の位置は、ベッド脇に置かれた椅子に座るロングビルの真後ろにあった。うつ伏せに寝転がったキュルケは、頭の近くに転がっていた枕を顔をベッドに押し付けたまま手探りで掴み引き寄せる。ベッドと枕で自分の頭をサンドイッチにすると、後頭部に乗せた枕を掴む両手に力を加えた。
「キスなんか、もう数え切れないくらいしてきた筈なのに……あんな子供騙しのようなキスが……一番熱かったのよ」
「へぇ……」
「子供を相手するみたいに頭を撫でて、キスして……なのに、何故だか今までで一番どきどきして……胸が痛くなって……苦しくて……」
「ふぅん……」
顔を向けることなく、背中で呟かれるキュルケの話しに適当に相槌を打つロングビル。
シーツに顔を押し付けているため、くぐもった声しか出していないキュルケ。
互いに顔を合わせず、ただ言葉だけのやり取りを行う二人。
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