一章 「おかえり、弟」
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を作って前に突き出して来た。
正直言って聞きたいのはそんな事ではないのだが、彼女の口から一つ気になる単語が出たのを俺は聞き逃さなかった。
「愛染中……? 」
今のご時世、この言葉を知らないのは産まれたばかりの赤ちゃんしかいないと言われているこの「愛染中」という学校名を、彼女は何の躊躇いも無く口にした。
「あ、知ってる? 」
「……」
通常の人間とは違う能力を身に着けている《異質者》の子供が通う中学校。約三十年前に起こった『あの事件』から、世界規模で問題視されている《異質者》という存在。
知らない方がどうかしている、なんて無駄口を叩く前に俺は、この《異質者》から「どう逃げよう」としか考えていなかった。
硬直する俺に対して、彼女の方は不気味な笑みを湛えている。
「……その顔は……もしかして、しぃから逃げる算段を立ててるのかな? 」
彼女は俺の考えをピシャリと言い当て、笑顔で言い放った。
それは絶望的な未来予知であり、絶対的な自己暗示。
「逃れられないねー、絶対」
その瞬間、俺は無我夢中でドアの方へ走り出していた。すかさずグッと右腕が強い力で後ろに引かれる。彼女だ、彼女が引っ張ったのだ。
「ッ――――」
とても女子とは思えない――――いや、最早人間ですらない、とても大きな力。馬鹿力なんてそんな安いもんじゃない。振り返れば彼女の不敵な薄い笑みと特徴的な四白眼と目が合った。
「クッソが」
俺はそう吐き捨て、右腕にへばり付く彼女の手の平を左手で払い、そのまま走りだろうとした瞬間今度は足を刈られる。
途轍もなく凄い勢いで床に倒れ込んだ。そしてボスッと俺の背中に座り込む《異質者》の彼女。肺が握り潰される様な感覚を味わい、圧殺されるかと一瞬思った。
「あのね、聞いてくれるかな」
そう言いながらも彼女は俺の返答を待たずに語り始めた。
「《異質者》って言うのはねー、大きく分けて三つに分けられるんだ。《先天性異質者》と《感染性異質者》、そして最後に《隔絶性異質者》……まぁ《異質》に対して耐性のある《隔絶性》は別としてねー、《感染性》と《先天性》は普通の人によく差別的な目で見られがちなんだよねー」
少しの間を開けて、また話し出す。
「でもしぃはその《普通の人》から《異質者》になったんだよねー。いやー小さい頃に《感染》しちゃった時は本当に吃驚したねー。周りの他人は勿論、お母さんやお父さんにまで見放されて寂しかったなぁ。でも、不思議と――――悲しくは無かったんだ」
「……悲しくなかった? 」
無意識のうちに、口から言葉が出てしまった。変に声を掛けると不味いか? とも思ったが、彼女はあっけらかんとした声色で簡潔に答える。
「うん」
相変わらず顔は見えない。
何でだろう
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