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《SWORD ART ONLINE》〜月白の暴君と濃鼠の友達〜
眠り姫
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ち主が外出する際に出入り口は自動でロックされるため、カギが開いていた以上、彼女は屋内にいることになる。

「セレシア? いるの?」

いないわけはないのだが、習慣で彼女の名を呼ぶ。返事はなく、屋敷の空気から突っぱねられた気がしたジロウは、思わず一歩後ずさって顎を引いた。これは、入ってもいいのだろうか。

またしばらく考えた後、ジロウは自信なさげに顔を上げ、自分に言い聞かせるように言った。

「べ、別に入っても構わないよね? 友達だし……」

友達、という関係の実態は、しかし世間一般的な認識とはかなり異なっているかもしれない。この場に彼女が居たとしたら、きっとこう答えるに違いないのだ。友達? 冗談じゃない。お前は私の”下僕”だろうーー

故に、ジロウは友達という言葉にこだわっているのだった。そうでもしなければ、情けなくてやっていられない。

深呼吸をしてから、ジロウはらしくもない勇気を発揮して、屋敷に侵入する。始めにジロウを出迎えたのは、二階までぶちぬいた贅沢なホールと、ぶら下がる巨大なシャンデリアだ。見慣れてきたとはいえ、その厳かで垢抜けた内装には毎回驚かずにはいられない。

奥には、ホールを見下ろせる空中廊下と、二階に至る婉曲した階段があった。よく映画で、貴婦人が微笑みながら降りてくるあれだ。そこを足音立てずに上りながら、ジロウはもう一度彼女を呼んでみた。

「おーい、セレシアー? いないのー……? ……うぅ、本当にいなかったらどうしよう」

何のことはない、不法侵入が空き巣に変わるだけである。やはり彼女は外出していて、この瞬間に帰ってくるという最悪の展開だけは考えないようにしつつ、ジロウはせかせかと足を動かした。

とにかく屋敷は広い。こんな場所から彼女を捜し出すのは、とても不可能に思えた。なにせ廊下一つとっても、扉が十は並んでいるのだ。

コの字型に作られた屋敷の、東側の棟を一通り見て回ったジロウは、半ば意地で隣の棟へと捜索範囲を広げた。すでに不法侵入の罪悪感も峠を越したという感じだ。

「……また扉」

空中廊下を渡りきるなり、ジロウは呆然と呟いた。やはりこちらの棟も作りは同じらしく、赤い絨毯の敷かれた廊下にずらっと並ぶ扉を見て、ジロウは流石に気が滅入ってきた。ここにきて、特大のクエッションマークが頭上に浮かぶ。

これだけの部屋、必要なのか? と。

思えば、今まで彼女から立ち入りを許可されたのは、ホールとキッチン、あとは彼女お気に入りの絵が飾られた応接間だけだった。漠然と大きい屋敷だとは思っていたが、真相はそんな表現では全く足らなかったらしい。その瞬間、先ほどから不穏な音を立てていた心がポキリと折れた。

帰ろう。

うなだれながら踵を返したジロウは、しかし視界の端に白っぽい
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