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継承カタルシス
断章 「おはよう、弟」

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断章 「おはよう、弟」

アニメや漫画の血飛沫は、綺麗に見える様に整えられたものなのだと俺は今日知った。

遠く離れて蹲る親友は、まるで鋭利な刃物で切り刻まれたかの様な傷を負っている。一体どうしたって言うんだ、どうしてそんなに血が出てるんだ。俺は親友の近くに駆け寄り、意識の有無を確認する為に名前を呼ぶ。
「おい隼介ッ! しっかりしろって!」
隼介は目を閉じたままで、俺の声掛けに対して微塵も反応しない。
「誰がこんな酷い事を――――」
血を染み込んだ隼介の制服と、自分の右手に握らせてあるカッターナイフが、先程までの惨事嫌でもを思い出させる。俺はハッと息を飲み、振るえる右手を左手で押さえ――――隼介の手の平にカッターナイフを突き刺した。
「……」
どうだ? 流石に起きるか? しかし、相当な刺激だった筈だが、それでも隼介は起きない。もしかして出血の量が多すぎたせいで、瀕死なのか?
「あっ」
そして、気づく。
「こんな酷い事をしたの……そう言えば、俺だったな」
自分でも吃驚するくらい低いトーンの声。《異質者》になってしまった、可哀想な自分の声。親友の隼介が自分のせいで死にそうだと言うのに、やけに落ち着いた自分が可哀想で仕方なかった。
「これからどうしよっかな……」
このままの状態で居続けると、またあの変な《保健委員》に、家族だの《弟》だの訳の分からない事を言われて捕まるのがオチだ。かと言って今動くと自身の髪から滴り落ちる隼介の血液のせいで血痕が出来、逆に目印を作ってしまう。
さて、どうしたものか。
「なぁ隼介。どうした方が……良いかな……」
当然だが、返事は無い。そろそろ突っ立っているのが疲れてきたので、横になっている(倒れている)隼介を背もたれ代わりにして地べたに座る。
「隼介……俺さ……なぁ、隼介」
いくら呼びかけても、返事は来ない。
「俺って――――そんなに《異質》かな?」
返事は、来ない。

四月四日の中学校入学式。この日は俺の誕生日でもある。
そんな日に、俺は《異質者》になった。
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