第八章
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い。彼は猛然と滑り込んだ。
しかし梨田も負けられない。彼も名キャッチャーとして知られる男である。それを身を挺して防いた。
砂塵が巻き起こる。球場は完全に沈黙した。
「アウトか!?」
「セーフか!?」
皆審判の動きに注目した。
西本は喉を鳴らし唾を飲んだ。組まれた腕に指の力が強く加わる。
審判の手がゆっくりと動いた。そして彼は口を開いた。
「アウトォッ!」
彼は拳を突き出して叫んだ。その瞬間三万二千の観客は爆発に包まれたように騒ぎだした。
「なんちゅうバックホームや・・・・・・」
定岡はホームの上で正座をする形で呆然となっていた。さしもの彼もこれ程凄い返球は見たことがなかったのである。
試合はこれで決まった。引き分けとなり近鉄は前期優勝を決めた。
「マニエルおじさんの遺産をドラ息子共が食い潰してもうた」
西本は優勝後のインタヴューでそう言った。ここまで来れたのは彼のおかげだったからだ。
「ミスターニシモト・・・・・・」
マニエルはそれを病室で聞いていた。赤鬼の目に涙が浮かんだ。
「おい、近鉄が優勝しよったで」
この話は阪急ナインにもすぐに伝わった。
「そうか、あいつ等藤井寺のお爺ちゃんを男にしたったんやなあ」
彼等はそれを我がことのように喜んだ。チームは違えど彼等もまた西本の弟子達なのであった。
「ようやりおったわ。あの連中も成長したな」
それを特に喜んだのは加藤であった。彼はあの時西宮で近鉄ナインを怒鳴りつけたことを昨日のように覚えていた。
(平野、ようやったな)
西本は心の中でそう言った。彼ですら諦めたというのに平野は諦めてはいなかったのである。
(そして、すまんかったな)
諦めたことが申し訳なかった。選手達は諦めていなかったというのに。
こうして近鉄は前期優勝を成し遂げた。しかし戦いはまだ続いていたのである。
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