第七章
[2/2]
[8]前話 [9]前 最初 [2]次話
勝つか引き分けだと近鉄は前期優勝である。だが負けると阪急が優勝する。戦力からいって後期に優勝するという確証は何もない。いや、阪急が圧倒的に有利になる。近鉄にとっては実に苦しい状況であった。
それを見ている男がいた。南海の監督広瀬淑収である。
彼は関西球界にその絶対的な存在感を示した鶴岡一人に見出された男である。それだけに野球に対する想いは強いものであった。そして万全の調子で敵と戦うことを欲していた。
この三連戦の前に近鉄は後楽園で日本ハムと戦っていた。そして移動日なしで大阪球場にやって来た。近鉄の戦士達は心身共に疲れ果てていた。敗色濃厚であった。
しかし彼等が大阪に戻って来たその日に雨が降った。だがそんなに大した雨量ではない。しかも試合前には止んでしまった。しかし広瀬は審判達に中止を要請し中止させてもらった。
「監督、何で中止してもらったんですか」
選手の一人がベンチに戻った彼に対し問うた。
「そうですよ、お客さんも折角楽しみにしてたのに」
「確かにお客さんも大事や」
広瀬はその言葉に対し言った。
「けれどな、今の近鉄は疲れきっとる。そんな相手に勝ってもそれはほんまに勝ったとは言えんやろ」
「あ・・・・・・」
選手達は近鉄側のベンチを見た。彼等の疲労の色は最早隠せない程であった。
「お客さんにはいい試合してこの借りは返す。わし等もプロや、決して手は抜かん」
広瀬は選手達に対して言った。
「けれど戦うんやったらお互いにベストの状況でやらなあかんやろが」
「はい・・・・・・」
選手達はその言葉に頷いた。西本は広瀬に無言で礼を言った。
そして二六日、最後の戦いの幕が開けた。
[8]前話 [9]前 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ