17話
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そう思わない人も、いっぱいいるんだ」
そして、父は立ち上がって、街路樹を見つめる。
「あの街路樹は、苦しそうに見えるかもしれない。実際、生存に適した環境ではなく、劣悪な生育環境だと私も思う。でも、植物は悲しいとか、苦しい、とは感じない。彼らは人とは違う理屈で生きていきて、私達と同じような感情を持つことはない、いいかい、カナメ、ここを間違えれば、植物の政治的利用というものが始まるんだ」
「政治利用?」
唐突な話題に、ボクは首を傾げていた。父はどこか馬鹿馬鹿しいような笑みを浮かべて、自虐的に笑った。
「植物にクラシック音楽を聞かせればよく育つ、といった話を聞いたことがないか?」
似たような話はいくつか聞いたことがあった。ボクが頷くと、父は疲れた笑みを浮かべた。
「古今東西に似た話が転がっている。クラシックは善で、ロックが悪だとか、そういう時代があったんだ。あのダーウィンも、植物と音楽の関係について調査したことがあった。最もダーウィンは後にそれをまぬけな実験と呼称しているが、そうではない人間も多くいた。つまり、クラシックの優位性を植物を以って証明しようという人間が数えきれない程いた。そうした方が都合がいいんだ。いい音楽、悪い音楽。それを科学的権威によって正当化しようという動きがあって、植物はその流れに飲み込まれた。杜撰な実験環境、方法、計画。そして、他の研究室での再現性のない科学的欠陥を持った実験だったが、そうした一連の動きが大衆に植物がまるで音楽を解する、という間違った理解を与えてしまった」
父はそこで息をついて、コンクリートの間から生える雑草を見つめた。
「植物は身近な生物だ。しかし、主体的に意見を発する事がない。だからこそ、私達は勝手に植物の代弁をしてしまう傾向がある。水やりをした後に気持ちよさそうだね、と話しかけてしまうのは、その人間の価値観を反映したものだ。植物の価値観は反映されていない。暖かい太陽の下にいる植物を気持ちよさそうだと感じても、実際は二酸化炭素の不足から太陽光を有効活用できず、その紫外線によって身を危険に晒しているところかもしれない。私達の代弁というものは、往々にして植物の意思と無関係なところから発生し、植物の真意を無視してしまう。私達が持つ共感能力や感情移入は人間に合わせたものであって、その共感能力の対象として植物は適さないからだ」
ボクは父の言葉を何とか理解しようと、じっと聞いていた。
「カナメは学者になりたい、と以前に言っていたね。それならば、これだけは覚えておいて欲しい。カナメが植物と近しい立場になればなるほど、奇妙な連中が近づいてくる事になるだろう。植物の価値観を無視し、それを自らの政治的価値観の為に利用しようとする連中だ。だから、これだけは覚えておくべきだ。植物は人による干渉
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