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無題(思いつかない)
無題
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違う」
「じゃなんでアキラはアキラなん」
「生まれつきだ」
 それからとうとうとアキラの性格やら特徴を聞かされた。温厚で怒ると怖いとか、色白でチンコの皮が長いとか、天然パーマの子は「アキラ」じゃないとか、足腰が弱いとか、そのため運動音痴が多いとか、そのわり声がでかいとか。水に弱い猫みたいな感じとか人に媚を売る犬に近いとか。つまりは単純に馬鹿にされやすい性質なんだ。まぁネタになりやすい。そのくらいの子はどこにでもいる。問題は「アキラ」っぽいだけでヤラレちまうことなんだ。小さい頃それっぽい子をいたぶると罪悪感も無く気持ちいい感じになるって噂が広まってさ、みんな子供のころからそれを避けようとして頑張っているんだから。そのぐらいの存在なんだよホント。ひどいな「はは」と声が漏れた。「21センチ」皮も入れてだろうな。
 バイクは並みの山を近くに見て左に切れた。
「おぉ、富士の樹海じゃないの」富士はまだ遥か遠い。
「えぇ、なんでそんなこと思う」瞬発的に父親が答えた。
「物騒な話はそこかと思って」
「陳腐な想像だなぁ」
「そうかぁ、陳腐かぁ」
 もう「アキラ」なんて昔の発想だ。百年以上前から若者の間だけで話が膨らんじまった。まったく関係ないことや、関係があるのに自分達も危ないから揉み消した話しもあるのだろう。話をそらす為に人だってよく死んだって話しもある。それは確かにあるんだ。揉み消そうとしたほど確かにあったんだ。もう全体像なんて分からない。でも自分達の文化に、考え方に脈々と受け継がれちまった。「マッタクッ!」厄介だな。「フゥー」
 バイクは林道を走る。初夏の陽気で緑が明るく、道を照らす太陽も柔らかい。元山伍一の緑のサングラス越しに森の緑が一層映える。日本の太陽は景色を色あせたものにしてしまう。もしくは日本の光に慣れてしまった僕らの色覚はと言い換えてもいい。
 バイクが止まったのは山の斜面を少し登ったところだった。森が深く、昼も一刻回らない時間でも薄暗い。湧き水が湧いている。錆びた、元山伍一の背丈より大きいタンクがあった。斜面を背に振り返ると田園が広がる。農業用水に使ったのだろう。
「しばらく休むか」ヘルメットをとって父親が言う。
「いいや」
「登っていけるか」伍一のからだは痛かった。登る気は起きるのだがあまり歯切れはよくなかった。
「まぁいけると思うよ」
 急がないからとの父親の声を聞いて、湧き水に手を伸ばす。顔の油っぽいところをこすってシャツの裾で拭いた。目の前の林道は階段で、一段一段がひどく狭い。古びた木材で造ってあった。道の脇からずっと奥までは草が生い茂り、その緑の葉が木漏れ日に明るく染まっている。あたりはシンとしていた。その草の葉に音が染み込んでいるのかと思わせる、柔らかな葉っぱ。「こんもり」その表現は似つかわしく、それを豊かに感
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