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無題(思いつかない)
無題
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く。それは適当な距離まで遠ざかると、元山伍一に一言二言話しかけた後、お休みを言った。目を瞑ると血脈の潮騒が耳に届き、静かな夜を運んでくれた。

 ガレージの開く音が聞こえる。時間は九時をまだ回っていない。低いエンジン音が絶え間なく響いている。
「親父どっかいくのかな・・・」
下の階では食器の音が響いている。いつもの通り遅い朝食。両手には浅黒いあざが出来ていた。前日確認したより派手な色合いになっている。腿から背中にかけてがひどく痛む。夏休みの走りこみはどんなんや、と思う。母親がいつもよりやさしく部屋をノックする。いつもよりやさしく朝食へ誘う。いつもよりやさしくドアを閉める。階段を下りる足音はひどく静かだった。いつもなら緊張感を増すハーレイの音も聞き流せていた。父親のハーレイに乗ってツーリングしたことを覚えている。母親もそうやってツーリングに出たらしかった。今日ツーリングに行かないかという誘いは父親からの言葉だった。疲れから来る腹の据わりは元山伍一の意識を目の前の父親に並べていた。
「ワイヤレス持ってけや」と父親がぶっきら棒に言った。
「ジーパンとTシャツでいいか」
「おう」
 高校入学の時買ってもらったつや消しの黒いヘルメットにワイヤレスマイクを付けて目盛りを合わす。
「14チャンネル」「カチカチ」実際カチカチと声に出した。「カチカチ」

 久方ぶりの父親の背中は落ち着いて見れば普通だった。普通の大きさ、普通の厚さ、普通の硬さ。
「少し大きくなったか」
「何が」
「身長よ。いくつある」
「187」
「十センチでかいな。なぁ知ってるか。男と女は男のナニの分だけ身長が離れてると相性がいいらしいぞ」
「残念だったな」
「相性が悪いか」
「俺、男じゃ、ボケ」
ハーレイは国道を走る。制限速度を少し上回って走っている。小さい頃は小心と思っていた。何度もメーターを覗き込んだ覚えがある。
「今日はどこ行く」
「昨日アキラに会ったか」
「何で、急に」
「話に出たか」
「ああ」
「何か言ってたか」少し緊張しているようだった。
「噂以外知らん」
「三十年前は生まれてなかったもんな」
「知ってんのかい」
「今から行く」
「どこに」
「墓」
 しばらくの沈黙が続いた。
「どんな奴だったん」
「普通の子よ。ちょっと奥手のデカちんくんよ」父親も昔は悪かったのかしら。「うふふ」と思った。言葉に出かかる。
「下らん嘘話で死んだよ。毎年行ってるのよ、そこ」
「知らんかったわ・・・実際いたのな。しかも死んでんのな」
 伍一はひょっとしてと思う。父親がやったんじゃないかって。「アキラ」殺したんじゃぁないかって。悪い予感は繋がりやすい。やめよう。意識的に思考回路を止めてみた。
「なぁ、親父アキラちゃうよな」
「おれはアキラ
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