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無題(思いつかない)
無題
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る。佐々岡のトヨタはメタリックなオレンジに光っている。先刻夜の二時に元山の家まで迎えに来たやつだ。他のメンバーは銘々のバイクにまたがりエンジンを温めている。内陸のここの夜は六月でも少し露を運ぶ。高圧断熱タンクでもガスの冷ます夜風の水が滴る。マフラーから排ガスに混じる水蒸気が漏れ、水素系ガスが確かに燃えるのを見せている。夜とその光を軽い香りと、似つかわしくない重低音と白いもやが包む。もはや神聖ではない「新山」が、「グライダース」と夜を含み 劇画の劇画たらんとするエキスを十二分に発揮してその夜性を凛と保つ。プルシアンブルー。緑がかった暗い夜の青。微風がサイドガラスの隙間から助手席を満たしひやりと肌をさする。佐々岡が亮太を後部座席に横たえ、助手席に乗っている元山はそれを見ていた。「疲れてんだろ」佐々岡の言葉だ。
「シンザンねぇ」佐々岡がみんなの前とは少し違うテンションでつぶやく。「なんだかな」って感じだ。
「おい、伍一。シンザン拝んだか?」
「何でですか」
「偶像崇拝」
 元山は上目遣いで「シンザン」を見て手を合わせた。亮太の大事なものの供養みたいなもんね。
「自分、ずっとシンザンって神の山のほうだと思ってましたよ。あの神様の神で神山」
こんな話をするのはなんだか声が上ずっちまう。佐々岡がエンジンを回した。
「まだ小学校の時ここんとこ集まる人怖くて近づけなかったですもん」
「近づけないから神?」佐々岡が返した。
「いやーそんなんじゃないっすけど・・・なんかあそこから帰ってきた人は なんか神がかってるとか言うやつがいて・・・逆に怖くなって全然近づく気になれんくて。今日久しぶりですよ」
「デビューやし。今日デビューやし」佐々岡がバックミラーで亮太を気遣った。「壊れた関西弁」と思った。何故か俺達の世代はテンションが変わると訛りも変わる。
「ようグライダース選んでくれたな」車はゆっくり走っている。亮太が後ろで寝ている。環状線から町に向かう県道にゆっくり合流する。
「かっこええし・・・」 
「何で他のチームにせえへんかった?アキラに気に入られたら女もそこそこ行けんのと違うか?自分 顔かわいいし」佐々岡の左手の指に元山の頬肉がつままれる。元山は何も言わなかった。しばらくの沈黙。佐々岡はセブンスターを二本吸う。元山はあくびを何回かやり過ごす。亮太は歯軋りをしていた。
 家に着くまであまり記憶がない。疲れきっていた。少し大人になったのか、いつもより景色が近い。意識が広がっている。手が届かないものに届く、その感じだ。物理的にも精神的にも。動かないからこその世界の掌握。
「ふふ・・・」アドレナリン?分泌?出すぎたのかな、とつぶやいた。明日は土曜だ。元山はベッドに伏して考えている。安静を待っているんだ。窓のカーテンは開け放たれて、満月を偽った月が煌々と輝
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