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無題(思いつかない)
無題
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伍一は洞穴をのぞいた。奥に日の当たる場所がある。洞穴の天井に穴が開いているのだ。そこには向日葵があった。そう。

  ソコニハ向日葵ガアッタ

  ミタコトモナイオオキサノ向日葵ガアッタ

  制服ヲキタオトコノハッコツガアッタ

  ヒマワリノ根ハ ハハッコツヲツツムヨウニシテ

  オトコカライキモノトシテノ影ヲハギトッテイタ

  モウマルデヒトガシンデイルナンテオモエナイホド綺麗ダッタ。

 元山伍一はしばらく動かない。動けないのか、動かないのか、動いちゃいけないのか、縛られているのか、分からないまま動かなかった。注視した。まじまじと見た。「李」と書いてあった。名札には「李」と書いてあった。「中国人」と思った。ないしは在日と。向日葵は大きく、その花は太陽を求め天井の穴めがけて伸びている。茎は太く何本も絡み合い、その一本一本が両手で握るにあまるほどである。花は何輪か集まり太陽を目指す方へと向いている。その高さは軽く三bを超える。ちょっとした小人気分だ。
「あぁリンチで・・・こんなでかいの・・・」適当な感想かは確かじゃない。何が適当かは分からない。「アキラ」なのかは聞きようもない。噂どおり殺されたんだろうけど。
「親父どこ行った」父親がいない。
 ひとしきり洞穴の中を探して向日葵の茎をよじ登った。晴天。何の殺伐も感じない。「アキラ」と思った。父親がいない。suitable≠ネんだかそれがてきとうなんじゃないかと思った。確かに失踪なんだけど。とてもふさわしい行動なんじゃないかって。

 帰りの道はひどく迷ったけど何とか国道までたどり着いた。日が暮れるまで歩きながらヒッチハイクをした。一組の若い夫婦らしき男女の乗るレガシィが止まってくれた。三人の会話はしばらく無かった。ダッシュボードに白いカスミソウとゆりの花束が置いてある。いい香りがしていた。民家が見える頃やっと女のほうが口を開く。
「ずいぶん背が高いのね。いくつ?」
「187。16です」
「ふーん、高校生?」
「二年です」

 しばらくの沈黙。

「ずいぶん疲れてる顔してるけど何かあったのかしら」とても慎重な口調で聞いている。隣の男がそういうことは聞くなと目で合図している。
「いけなかったかしら」
伍一は頭を振って「はい」とも「いいえ」とも言わなかった。沈黙が続いた。気持ちのいい沈黙だった。とても気持ちが凛としている。
高校の近くで降ろしてもらった。家まで十五分ぐらいのところだ。深々と頭を下げて礼を言った。
高校の前を歩く。「アキラ」が恐らく本当に殺されていたこと、父親がいなくなったこと、母親になんて言えばいいか、もしかしたら父親も何らかの関係があるんじゃないかってこと、殺した張本人ってわけじゃなくても・・・そんなことを考えていた。
「もう
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