第一章
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た。彼等の多くは関西人である。ただでさえ巨人を忌み嫌う土地柄である。しかも当時は今よりも遥かに巨人寄りと言われる審判が多かった。その代表として昭和三六年のシリーズでの円城寺である。彼はその試合で今尚疑惑と言われる判定を行なっている。
だが翌日の新聞では土井の足は岡村のブロックをかいくぐりホームを陥れていた。土井の見事なかいくぐりであったのだ。
「だがね、選手達はそう言ったんだよ」
彼はそれを見てもあくまでそう言った。彼は選手達を心から信頼していたのだ。
阪急はこうして五度のシリーズ全てに敗れた。西本は昭和四八年プレーオフで野村克也率いる南海の奇計の前に敗れると阪急の監督を退いた。そして今度は近鉄の監督になった。
近鉄はこの時弱小球団に過ぎなかった。阪急と同じく人気もなく誰も振り向くことはなかった。
「御前等のことはよう知っとる。だから来たんやからな」
西本は選手達を前にしてそう言った。そして再び拳骨と熱い心をもって選手達を一から鍛えなおした。
それから五年経った。近鉄は今この試合に勝てば三年振りにプレーオフに進出することが出来る。
思えば長かった。前回の昭和五〇年は敗れている。今度こそは勝ちたかった。しかし
「鈴木の身体がカチカチです」
そこにいたのは近鉄のトレーナーであった。彼は西本に対し青い顔をして報告した。
「そうか」
西本はそれを聞いて一言そう言うと静かに頷いた。
鈴木啓示。近鉄、いや球界を代表する左腕である。彼はこの試合の先発であった。
『草魂』これは彼が作った言葉である。彼は自宅のベランダにコンクリートを突き破って生える草を見てその言葉を作ったと言われている。
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