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あと三勝
第六章
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第六章

 だがその殆どは阪急の勝利に終わった。だがその時は違っていた。遂にその雪辱を晴らす時がやって来たのだ。
 僅か二十歳の若武者山口哲治が抑えとして阪急の強力打線を抑えた。そして近鉄の打線も以前とは見違えていた。いてまえ打線の誕生である。
 そのいてまえ打線が阪急の切り札山口高志を打ち砕いた。あの時はバットにかすりもしなかった山口の剛速球をスタンドに叩き込んでいったのだ。
 遂に近鉄はペナントを制した。西本はようやく近鉄を優勝させることに成功したのだ。
 そしてこの年。相手は前期の覇者ロッテである。だが近鉄は臆するところがなかった。
「流石に風格があるな」
 試合前ロッテの監督である山内一弘は近鉄のベンチ前で素振りをするいてまえ打線を見て言った。その中心には西本がいる。
「あの近鉄をここまで育て上げるのはあの人しかおらんか」
 山内もま西本の下にいたことがあった。彼はかって大毎で猛威を振るったミサイル打線の四番だったのだ。
 その大毎を就任一年目で優勝に導いたのが西本であった。彼は大選手を前にしても臆することなくその情熱を振るい続けてきたのだ。
 その西本とパリーグの覇をかけて戦う。山内はそこに運命めいたものを感じていた。
「だがこちらに分が悪いな」
 山内は自軍のベンチを振り返ってそう思った。このシーズンロッテは近鉄に大きく負け越していた。特に打線には徹底的に打ち込まれていた。
「あの連中をどうするか、か」
 平野、石渡、羽田、佐々木、栗橋、梨田、有田。皆西本が一から育て上げた強打者達である。パワーだけでなくミートにも定評があった。容易に抑えられるとは思っていない。
「おい」
 山内はここでコーチの一人に顔を向けた。
「投手陣に伝えろ。総力戦でいくぞ、ってな」
「わかりました」
 山内もまた思いきりのいい男である。特にその打撃指導には定評がある。将としても無能ではない。
 しかし勢い、そしていてまえ打線には勝てなかった。忽ちその猛攻に曝されてしまう。
 いてまえ打線はここぞとばかりに打ちまくった。まずは第一戦。平野、栗橋、羽田が次々とアーチを放つ。圧倒的な力を初戦でいきなり見せつけた。
 投げては井本が好投した。西本はここぞという時には彼を投入した。そのマウンド度胸の良さと勝ち運をよく知っていたからである。
 第二戦でもいてまえ打線はロッテ投手陣を急襲した。まずは二回で三点を奪った。
 近鉄の先発は大黒柱の鈴木であった。その鈴木が打線の援護に気をよくし好投した。ロッテは二点に終わった。
 こうして一気に近鉄は王手をかけた。だがロッテも指をくわえて見ているわけにはいかなかった。彼等にも意地があった。意地がなくてはプロではない。
 近鉄の先発柳田を攻略した。そして三回までに四点を奪った。
 だが
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