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久遠の神話
第九十二話 百腕の巨人その一
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          第九十二話  百腕の巨人
 コズイレフはその日朝から静かだった、大学に通い部活にも出た。そして部屋に帰ってそれからだった。
 部屋の中でテレビを観た、その彼にだった。
 声がだ、こう言って来た。
「準備は」
「出来ています」
 コズイレフはテレビを観ながら声に答えた。
「もう」
「そうですか。それでは」
「僕は戦いから降ります」
「わかっています」
 それはもう受け入れていた、声にしても。だからその声には達観があった。
「私としては残念ですが」
「僕が降りて次は」
「どうなるかわかりません。ですが」
「それでもですか」
「私は諦めてはいません」
 それはだ、決してだというのだ。
「今も」
「戦いは続けられるのですか」
「彼が神となるだけの力を集めるまで」
 それまではというのだ、何があろうとも。
「そうします」
「そうですか」
「はい」
 迷いのない返答だった。
「そうします」
「そうなんですね」
「あと少しなのです」
 声の中に意地が加わった、聞けばはっきりわかる位のものが。
「そこまでの力が集まるのは」
「聞きたいのですが」
 コズイレフは顔はテレビの画面に向けたままだった、そのうえで声に対して己の言葉を告げた。投げる様にして。
「貴女はそれだけの力が集まれば」
「その時はですか」
「どうされるんですか?僕達を」
「戦いが終われば貴方達を戦わせる理由はありません」
「それじゃあ」
「戦いは終わりそうして」
 そのうえでだというのだ。
「貴方達も戦いから解放されます」
「そうなるんですか」
「神話からの戦いは終わります」
 エンディミオンが目覚め神となるだけの力が集まればだというのだ。
「その時は」
「そうですか、ではどのみち戦いはですね」
「終わります」
 間もなくだ、そうなるというのだ。
「その時が来ています」
「ではこの戦いで」
「この戦いはこれまで以上に力が集まっています」
 このことは喜んでいた、声もそれを感情として出している。
「ですからこの戦いで」
「では貴方の想う人も」
「わかりますか、神話の頃より」
 声の言葉は今は丁寧なものだった、聡美のそれにそっくりだ。どうやら感情が極めて切実な色になるとそうなるらしい、彼女の場合は。
「私はあの人を想い」
「そうしてですね」
「あの人と共に過ごせることを期待していました」
「そして僕達を戦わせてきた」
「それぞれ罪を犯した貴方達を」
 神話の頃に集めてそうしたというのだ。
「本来ならばタルタロスに落とされるべき貴方達を」
「タルタロスですか」
 コズイレフもタルタロスのことは知っていた、ギリシア神話にあるこの
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