二十六 黎明
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通常術から自由になった口寄せ生物は、ぽんっと弾けて霧散する。元の、自分達がいるべき場所へ戻るのだ。だが零尾は帰らなかった。
未だ此処に残り留まっているのは、神農に対する復讐だけではない。
帰らないのではなく、帰れないのだ。己を形作る記憶を全て失っている。
神農への殺意と、記憶喪失に関しての困惑。これらが零尾の中でせめぎ合っている。そして何より途方に暮れ、戸惑っていた。わからないのだ。
自分の居場所が。帰る場所が。そして自分自身が。
「……本当に、憶えていないのか」
再度問われ、零尾は項垂れた。どうしたらいいのかわからず、困り果てる。おぞましい外見の反面、中身はまっさらである零尾はまるで無垢な赤子のようだった。
「なら、帰る場所が見つかるまで」
すっと手を指し伸べられる。その白い手を零尾はまじまじと見つめた。広大無辺の闇が光で溢れ始める。
「この身体を、『宿』として使っていいよ」
完全に光に塗り潰される闇。光を背に笑う少年の姿をはっきり捉え、零尾は目を細めた。見失った心。この少年と一緒にいれば、その心を取り戻せるかもしれない。
「俺はうずまきナルト。本当の名を思い出すまで、『黎明(れいめい)』と呼んでもいいかな?」
闇の権化である零尾にあえて『黎明』と名付ける。始まりや夜明けを意味するその名を嬉しそうに頷く事で、零尾は了承の意を返した。
向けられた微笑みを眩しそうに見つめる。そうして自身の手を少年――ナルトの柔らかい手の上にそっと重ねた。唯一残った希望は彼の中にあるのだと、そう確信して。
床にへたり込んでいた神農は、手前に立つナルトの背中を凝視した。信じられないとばかりに目を大きく見開く。口端がぴくぴくと引き攣った。
制するように手を伸ばすナルト。それに従い、おとなしく身を屈める零尾。微かに揺れる尾は、主人に尻尾を振る犬を思わせる。
両者の関係は誰が見ても明らかだった。
「……術式無しで、そいつを手懐けたのか…」
ぽつりと神農が呟く。途端、零尾が小さく唸り声を上げた。
その様子に激しく身を竦ませる。全身をつたう冷や汗を感じながらも、神農は精一杯虚勢を張った。
「ふん。使いこなせるものか。そんな化け物……ッ、人の手には余る代物だ!!」
その言葉を最後まで言い切る前に、神農はぞくりと寒気を感じた。
身体が硬直しうつ伏せになる。凄まじい重圧が彼の全身に圧し掛かった。ハッハと荒い息を繰り返し、四つん這いになる。呼吸するのも困難だ。
必死に力を振り絞る。ようやっと顔を上げた神農は視線をナルトに向けた。ひっと息を呑む。
ナルトは冷めた目で神農を見下ろしていた。その眼は今まで見ていた眼とは違う。もっと冷たくて得体の知れない何かが神農を
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